2011年11月24日木曜日

楽譜を読む─テンポの数値について

数値を理解したり、扱ったりするには、やはりそれなりのセンスが必要です。
最近では、原発事故のために、シーベルトという単位があまりに身近になってしまいました。いろいろ報道を見る限り、この単位の数値評価のポイントは、ミリなのか、マイクロなのか、毎時なのか、年間なのかという点です。数百マイクロシーベルトという数値も毎時と年間では桁が四つ近く違ってしまうわけですから。

関係ない話で始めてしまいましたが、音楽にも数値を扱うセンスが要求されます。
楽譜内で使われる数値で特に厳格なものに思えるものは、テンポと音価です。テンポと音価以外では、音量も数値的ではないし、小節番号はただの序数だし、あまり思い付きません。

テンポの数値の扱いについて考える際、そもそもテンポを数値で書くことの危うさ、を認識しなければいけません。コンピュータで曲のテンポを制御しない限り、生音楽のテンポは常に変わり得ます。同じ曲を同じ人が演奏しても、演奏する場所によってテンポは変わります。ましてや、演奏者が違えばテンポはすべて変わります。
それなのに、なぜテンポは数値で書いてあるのでしょう。
もちろん、AllegroとかLentoとか、数値を直接書かずに昔ながらのイタリア語表記で、ある程度イメージ的に記譜する人もいますが、それでも演奏者とすれば四分音符がだいたいどれくらい、といった指標は欲しいものです。

残念ながら「だいたいこのくらい」という感覚を音楽的に上手に表現する方法は、誰も標準化してくれませんでした。むしろ、数百年前メトロノーム表記が出来たときに、多くの人は喜んでそれに従ったものと思います。これほど明確にテンポを伝える方法がそれまでなかったからです。
しかし、便利さは新しい悩みを常にもたらします。作曲家が記譜したテンポの数値をどれくらい厳格に守るべきなのか、という演奏家の新しい苦しみを生むことになってしまいました。

それでも私は、曲のテンポの数値を分析すれば、作曲家の気持ちを汲むことは可能だと考えます。
例えば、ある曲の作曲家のテンポの数値に込めた思いを調べるとしましょう。
まずその曲全体で使われているテンポの数値を全部書き出します。合唱曲では、それほど長い曲でない限り、せいぜい4つとか5つとかくらいではないかと思います。
そして、書き出した数値の相互関係を見てみます。
例えば、セクションAのテンポが72で、その後のセクションBのテンポが112だったら、曲はセクションBになったとき急に速くなります。ところがその数値が、72から80くらいの変化だと、速くなり方が微妙です。
こういう場合、テンポを速めるというよりは、曲の雰囲気が快活になる程度の感覚を持ったほうが、正しいように思えます。

時系列に数値を並べ、その数値の相互関係を見るという行為は、数学的に言えば微分する、ということです。
今や、株の取引も高度な微分解析をする時代です。連続した数値の変化には、常に微分的な発想が必要になります。私たちを取り巻くいろいろな数値も微分すると、いろいろなことが分かるものです。
しかし微分とか言われて引かないで下さいね。
作曲家が伝えたいテンポに込められた数値のエッセンスは、微分することによって浮かび上がります。実際のところ、テンポの絶対値的な数値はホールや演奏者によって変わり得るものであり、曲の本質にとって本当に大事なことは数値の相互関係にある、と私は思うのです。

2 件のコメント:

  1. 上に凸なのか下に凸なのかも考えると、速くなるにしてもどこに急激な増加がくるかも変わりますね。数理的に捉えると、アンサンブルでハーモニーをハメるときに脳内でフーリエ変換もやってますね。

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  2. 合唱でもリアルタイムのFFTをやって、実際の演奏とデータを調べてみたいですね。面白い知見が得られるかも。

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