2015年5月17日日曜日

もし今どきの大手製造業で交響曲を作曲したら

●X社新作開発会議にて
企画担当「市況ですが、前回の交響曲第5番の初演より2年が経ち、観客動員数約◯◯人、音源の売り上げが合計◯◯枚であり、現在市場シェア約40%です。すでに世界中の顧客より新作への要望が高まっており、シェア維持のためにも新商品開発が必要です」
「先般C社の交響曲2番が5楽章構成で発表されており、市場では評価が高まっております。我がX社としては、次回の新作は6楽章構成といたします」
「また、1楽章のソナタ形式では従来二つしかなかった主題を三つに増やし、ゴージャスでボリューム感たっぷりの音楽を演出いたします。緩徐楽章では、最新ヒット曲の動向を踏まえた泣きのメロディを使用して多くの女性のハートを掴みます。終楽章では、サウンドの圧倒的な音圧を確保するため、大太鼓だけではなく本物の大砲を使うことを検討します」

(会議に参加している開発者の心の叫び)
『ちょ、ちょ、C社への対抗で5楽章を6楽章って、ただ楽章増やせばいいってもんじゃないでしょ』
『主題二つから三つだって。三つ目の主題は何調にすればいいんだよ。そういうの考えて言ってるのかな』
『最新ヒット曲の動向って、またギリギリセーフ的なパクリメロディ使うわけ? あと大砲とか何考えてんの? チャイコフスキーなの?』

●開発経費と担当決め
「今回6楽章なんだけど、どうする? 幸い偶数だから、第一開発課と第二開発課で半々かなあ。第一開発は1〜3楽章、第二開発は4〜6楽章でどう?」
「ちょっと待ってください。今回第一楽章は主題増加により、開発経費が増えることが予想されます。もしそうなら、開発費は按分というわけにはいかないんじゃ・・・」
「それはウチも一緒。増員は無理なんだから、現状でなんとかしてくれ」
「また、頑張れ、ですか?」
「いや、そうじゃなくてうまく開発効率をあげてくださいってこと」

(押し切られた課長の心の叫び)
『毎回毎回、内容が増えるのに開発パワー一緒って無理ゲーじゃん。効率上げるって、目立たない木管を前の曲のやつコピーして使っちゃう? もうリピート記号使わせようかな・・・』
『それに一つの曲を複数の課で作っても曲の統一が取れないよね。スラーや休符の扱いとか、フェルマータの書法とか、多分合わせ込みできないし』
『っていうか、企画担当って作曲したことあるわけ? 作るの我々なのに、てんこ盛りの変な仕様ばっかりで、こんなんでいい作品作れるのかな。企画考える人と作る人が違ってていいのかな』

●開発中の課長と担当者
課長「ということで、ウチの課は1〜3楽章なので、1楽章はA君とB君ね、それから2楽章はC君、3楽章はD君」
B「A君は昨年入社ですけど、いきなり第一楽章大丈夫っすか?」
課長「なのでB君にサポートしてもらいたい」
A「先輩よろしく! 先輩が先に提示部作ってくれたら、その後再現部作りますね」
B「おい、展開部は?」
A「なんすか、それ」
課長「まあまあA君は勉強を兼ねながら二人でうまくやってください。じゃ、よろしく」

(担当者Bの心の叫び)
『こりゃ、時間があれば一人で作りたいわ。教えるより自分が作る方が早いし』

●開発後半
課長「困ったな、品質部から5件も指摘があったよ。それから2件、平行五度が見つかった。平行五度の使用にはリスクが伴うから社長決裁が必要なのに。B君、A君は大丈夫かね」
B「すいません、まさか平行五度を使うとは思ってなかったです。こんなこと言わなくてもわかるだろうと思って・・・」
課長「ちゃんと言わなきゃ分からないんだよ、今どきの若者はね。もう一度、決裁ルールの教育を徹底してください。
それから、品質部からの5件。和声上のミスがたくさん見つかってる。いったいどうなってるんだ。ミスの修正はすぐやるとして、これらのミスの原因分析と今後同じミスを起こさないための施策を検討して、後で報告するように」

(担当者Bの心の叫び)
『あー、やっぱりね、時間無さ過ぎだものミスだって起こるよな』
『っていうか、まだ残りの仕事あるのに、原因分析と今後の施策考えろって、また仕事増えてるじゃん』
『本当は平行五度も味があるんだよね。決裁での使用になってから、みんなすっかり使わ無くなっちゃった。それに昔はこのくらいのミスがあっても平気でリリースされてたよな。一生気付かれないミスだってあるよなー。でもきっと市場からクレイマーが現れて、YouTubeとかで暴露するんだよなー』

●X社新作リリース後の顧客の(本当の)反応
「X社交響曲第6番はスゴい! やっぱり全6楽章の威力は違うね。緩徐楽章のメロディも良く出来てるし、それに大砲には驚かされたよ。これこそ交響曲の醍醐味だ」
「X社はまたちょっとつまらなくなったね。各楽章のスペックはスゴいんだけどね。何か心に響かないよね」
「ねー聴いた? あの緩徐楽章のメロディ。◯◯に超似てなくない?」
「X社の新作は飛び抜けた面白さが無い凡庸な音楽だ。全ては管理され、一様で、破綻が無い。しかし全体を統一した方向性も明確ではなく、曲を通してメッセージ性がほとんど感じられない」
「っていうかー、今どきオーケストラ曲って20分以内じゃないと聞く気になれないじゃん。交響曲なんてマジダサいじゃん」