2002年5月11日土曜日

入門 超ひも理論/広瀬立成

読んでもわからない(あるいはわかった気になる)専門書シリーズです。^^;
最先端の物理学にはそれなりに興味があります。が、もちろんまともに理解しようと思ったってわかるものではありません。こういった形の入門書だったら多少雰囲気くらいはわかるかなと思って買ってみたのです。
しかし、実はここに書いてあることを理解するための前提知識もかなり怪しいことに気付きました。いちおう、高校時代の物理や化学を覚えているくらいだったら十分だとは思うのですが、私はすでにすっかり忘却のかなたなのでした。高校時代に習ったはずのすごい懐かしい響きをもった単語も出てくるのですが、その意味となると全く思い出せない私がいました。
そんなわけで、わかったようなわからないような人がこの本の紹介をすること自体間違っているという話もありますが、恥をしのんで私の理解したところを書いてみようと思います。

それにしても、この本についている帯の「みんな”ヒモ”だった!?」というコピーはなかなか秀逸ですね。なんだか淫猥なイメージさえ思い浮かべるこのコピーは本屋で思わず手にとって見たくなるには十分でした。
そんなわけで、みんなヒモなのです。何がというと、これまで物質の一番小さな単位は何かといわれたら、原子だとか、その中にある電子、陽子、中性子だとか、さらにそれを構成しているクォークやレプトンだとか言うのがこれまでの我々の知識だったわけですが、それらはさらに小さい「超ひも(Super String)」によって出来ているんだ、という話なのです。これがこの本の全ての結論で、それ以上でもそれ以下でもありません。(^^;

ただこれが、単に物質の一番小さい単位は何か、という話だけにとどまりません。何故なら、この理論こそ物理学の最終理論である、というのがこの本の趣旨なのです。
世の中は一体どうなっているのか、どのように動いているのか、そういった根本的な疑問をこれまで多くの学者が研究してきました。こういった研究はマクロ的視野によるものと逆にミクロ的視野によるものに分かれます。マクロ的とはアインシュタインの相対性理論を始めとした宇宙論であり、ミクロ的とは原子以下の粒子の振る舞いを研究する量子力学です。こういった個別の学問を合わせるとどうしても辻褄が合わないところがでてきます。そして、これらを全て一気に解決してしまうと考えられているのが、この超ひも理論なのです。

超ひもにいたる道のりは、そういった個別の理論を段々に統一していく道のりでもありました。
アインシュタインは相対性理論を発表した後、電磁力と重力の二つの力を統合する統一場理論に傾倒するようになります。アインシュタインの特殊相対性理論はマクスウェルの電磁気力が内在する矛盾を光速不変というキーワードで解決したものですし、また一般相対性理論は重力の正体を扱った理論ということも出来るわけで、そのアインシュタインがさらにその次のものとして、電磁気と重力の統合を考えようとしたのはわかる気がします。しかし、彼の後半生を捧げた統一場理論は結局完成しませんでした。また、アインシュタインは量子力学に対しては、終始冷ややかな態度で接していたわけですが、実はそれが統一場理論を完成できなかった理由でもあったのです。
一方量子力学は、20世紀に最も発展した物理学のジャンルとなりました。それは理論だけでなく、加速器などによるおおがかりな実験によっても実証され続けました。そして、その結果世の中にある力とは、電磁力、重力、強い力(クォークを結びつける力)、弱い力(原子核のベータ崩壊)という4つの力があるということになり、物理学者はこの4つの力を統一するということを目標に置くようになりました。
まず最初に統一されたのは、電磁力と弱い力です。はっきりいってこのあたり、全く私には理解不能でしたが、何はともあれ統一されたのです。ワインバーグとサラムによって、電磁力と弱い力は10のマイナス18乗という微小な領域においてほぼ同じ力として記述されることが明らかになりました(この二人は1979年ノーベル賞受賞)。
この後、さらに強い力を統一しようという大統一理論が研究され始めます。これは、上と同じく非常に微小な領域、あるいは非常にエネルギーの高い状態にする必要があります。そのために世界各地でいろいろな加速器が作られ、それらの研究の様子などが写真付きでこの本に書かれています。しかし、残念ながらそれらの研究の成果からはまだ大統一が実証されるデータは出ていないようです。

そして、その末に現われたのがこの超ひも理論です。もちろん、上記のように実験で実証されているわけではなく、内容においてもまだまだ不十分な部分があるようです。それでも、この超ひも理論により、著者は4つの力全てが統一される可能性があるといっています。
このあたりの記述もまあほとんど私には理解不能でしたが、最終的にここで言われている「超ひも」とはこんなイメージです。まず、ひもの長さはプランク距離と言われる10のマイナス33乗cmという超微細な長さです。重さはありますが、ひもに太さはありません。このひもはプランク世界で定義されたものであり、私たちの常識である3次元空間のひもとは全く異なったものです。何がすごいかって、このひもは非常に高い次元を持つのです。このひもは時間一次元と空間九次元を合わせた10次元(あるいは26次元)の時空に存在します。我々に観測できない残りの6次元はプランク距離の中に縮められているというのです。
このような微小空間を扱うということは、ビッグバンによる宇宙の歴史をさかのぼって考えていくことにつながります。ビッグバン直後の10のマイナス44乗秒にいたるごく短時間の間、世界は10次元あるいは26次元の超ひもが飛び交う多次元宇宙になっており、その状態では原始の力が一種類だけ存在していました。それから、まず重力が別の力として分離します。次に10のマイナス36乗秒後には強い力が分岐します。最後に10のマイナス11乗秒後に弱い力と電磁力が分かれ、現在の4つの力が誕生するのです。

結局のところ究極の物理理論というのは、超微細空間、超高エネルギー状態において、様々な理論が統一される、ということなのだと私は理解しました。そして、その理論の裏づけとして高エネルギー状態を実現する加速器が必要なわけです。
最先端の理論物理学というのは確かにドキドキわくわくするものです。しかし、さすがにここまで来ると、あまりに非現実な空間であり、私もどのように理解したらよいか戸惑ってしまいます。
さて、この超ひも理論は果たして実証されるでしょうか。これからが楽しみです。