2012年3月26日月曜日

音律と音階の科学/小方厚

私も前に「音のリクツ」と題して類似の話題の連載をした身として、この手の本は大変気になります。さっと見渡して、内容的には自分にとって既知のものではあったものの、説明の仕方とか、そこから滲み出る音楽観とか、そういう部分において刺激を受けた本でした。

ただし、この本、ブルーバックスだけあって、理系人間を主な読者として想定しています。
数学的な話題もある程度突っ込みますし、数式やグラフを使って分かり易くさせようという意図が、かえって理系的になってさえいます。
しかし、それらは単純な物理的理屈だけではなく、必ずそこに音楽文化としての側面や歴史的側面があり、また一般にはそれほど知られていないような試みへの言及なども記述されるなど、著者の音楽に対する造詣の深さが伺うことが出来、なおかつ読み物として大変面白く書かれていました。

特に第4章からのアプローチは私も全く初めて聞くことで興味深かったです。
どんなアプローチかというと、倍音構造を全く持たない(純音)二つの音がどのような関係にあるとき、人は心地よく感じるか、という研究結果から音階の協和度を考えていくという方法。
まず、二音の関係からのアプローチのグラフは実に面白いです。音楽的な解釈無しでこのグラフを見るならば、二つのピッチが近いほど心地悪く感じ、ほとんど同じピッチになる直前で(同じ音に感じるようになるので)、また心地よく感じるようになります。
実際の楽音での音階上での二つの音程の心地よさは、このグラフを倍音毎に計算し全てを足し合わせたものになると考えます。そこで、一般的な倍音構造を持った音から1オクターブ内で心地よくなる音を探す計算を行ないます。
そうすると、そこで現れるのはいわゆる純正律の音階となります。
この論旨の流れは、私の理系センスをいたく刺激しました。音楽理論とは全く別の観点から、気持ち良い音階が純正律であることを計算で導いているのです。

最終章の音律の冒険も興味深く読みました。全く新しい音律を作ってしまおうという試みがいろいろ紹介されています。今のように電子楽器が発展している時代なら、このような楽器は簡単に実装できそうです。何かネタとして面白そうな予感を覚えました。
個人的には、これはお仕事で使えないかななどと考えています。楽器設計をする若い人には読んでもらいたいからです。

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