2010年7月8日木曜日

天地明察/沖方丁

2010年本屋大賞受賞で今よく売れているのだそうです。内容が面白そうなので、早速読んでみました。
素晴らしい! 面白い! 泣ける! これは良い本です。特に、理系の技術者、研究者なら涙無しに読めないほど感動できるのではないでしょうか。

ときは江戸時代初期。幕府で碁を打つのが仕事である渋川春海は、算術(数学)にも傾倒しています。そんな春海が、関孝和との算術勝負や、日本各地の測量の仕事を任されたりしながら、日本独自の新しい暦を作り上げるまでを描いた、壮大な大河ドラマ。
超高度な数学を駆使し、地球の軌道を求め、そこから新しい暦を作り上げていくその歩みは、研究者の醍醐味そのもの。周囲の人たちの献身的な努力、春海を取り巻く恋愛模様、日蝕の予想を外して新暦作りがストップしてしまうといった挫折や近親者の死など幾多の苦難を乗り越えながら、大きな仕事を成していくさまはまさに爽快の一語です。
とはいえ、春海は単なる理系バカなどではなく、幕府内の人間模様、朝廷での勢力関係などを冷静に分析しつつ、高度に政治的な行動を取っていくあたり、今の理系人間に足りない何かをうまく表現しているようにも思えました。

序盤、22歳の春海と60近くにもなって少年のような心を持った建部、伊藤との学問的な交流には何度も目頭を熱くさせられます。3人が測量の結果に対して、誰が一番近い値を出すか競争するくだり、春海が大正解するのですが、「そなた、星の申し子か?」「いかなる神のご加護でございますか!?」などと歳の差を超えて素直に驚いてくれるその純真さが何とも気持ちが良いのです。
死ぬ直前、建部が「わしにも、天球儀を作るという大願がある・・・」なんていうのも、死ぬまで夢を追いかける研究バカって感じで泣けてきますね。

しかし、よくよく読むと渋川春海の人生自体、ドラマチックであり、こんな題材を良く探してきたものだと思います。歴史の教科書なら、単なる偉人の一人が「新しい暦を作った」で終わってしまうのだけど、その中に潜む人間模様を浮き上がらせ、江戸初期の風俗、政治、そして神道等に関する蘊蓄がふんだんに語られたこの小説、かなりの秀作です。ストーリーだけでなく、読むものの知識欲まで満たしてくれますよ。テレビドラマ化されるかも。


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