2010年9月16日木曜日

プロトコル/平山瑞穂

「プロトコル」といっても技術書ではありません。文芸書です。恋愛小説とも言えるし、家族の物語ともいえるし、IT社会の危険性を訴えている小説とも言えます。純文学のようでありながら、エンターテインメントとも言え,笑えつつ、かつ泣けます。
そんなわけでまたしても平山瑞穂の本を読んでしまいました。全く重厚感の無い、明日になればすぐに物語の内容を忘れてしまうような影の薄いストーリーながら(なんか貶しているみたい・・・)、この著者の、ささいな日常への観察眼とか、偏狭なこだわりとか、気になったことを捨てておけない神経質さとか、そういう社会を生き抜くのにマイナス要因になりそうな性格にとても共感を覚えてしまうのです。

主人公、有村ちさとは、そんな著者の分身的存在。彼女から見える世界において、がさつで、おおざっぱで、無神経なあらゆる行為は憎むべきものです。
そして、文法や綴り、読み方が間違っている英語、フランス語も彼女にとって(著者にとって)憎むべきものの一つ。日常見ることができる、間違った文法のレストラン名、意味不明な英語の歌詞、間違った読み方のフランス語の商品名をあげつらって、こと細かく記述するくだりは、どうしてここまで本筋と関係ないことを延々と書くのだろうと思い、そんな作者の感性がますます気に入ってしまいました。

さて肝心のストーリーですが、とあるネット通販会社に勤める主人公が、ひょんなことから社内抗争に巻き込まれ、それが個人情報漏洩事件に発展してしまうという話。結末は思わぬオチで終わるのだけれど、誰も傷つかない爽やかな読了感にやや拍子抜け。
それに、登場人物がいちいち愛らしい。平山瑞穂はダメ人間を記述させたら天下一品だと思うのです。影山次長の情けなさはまるで救いが無いのだけど、心のどこかに「こんな人いるいる」感が拭えません。ちさとのダメダメな妹も、最後の最後には救ってあげたくなるような気持ちにさせられるのです。
そして半ば精神障害者でもあるちさとの父の言動は、しかし、彼女の心のあらゆるところに根を生やしています。

というわけで、私にとってこの小説、本筋よりも人物描写や、著者の神経質さ、言語への拘り、のほうが楽しく読めてしまいました。途中、主人公が新しい顧客管理システムのチェックでへとへとになるくだり、ソフトのバグ取りと全く同じで思わず苦笑。結局、ソフト開発って几帳面さとの勝負で、まさにこの主人公こそ、システム開発をする側にいて欲しいと思いました。
そんなわけで、平山氏の今後の活躍を期待しています。
ちなみに、著者が本書の出版について語ったブログの記事はこちら。なかなか笑えます。

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