2008年9月12日金曜日

アカペラの面白さとは3

アカペラ女声合唱の定番と言えば、小倉朗の「ほたるこい」。
合唱を普段聴かない人が初めて聴いても、きっと面白いと思ってくれることでしょう。もちろん、この曲の場合ある程度残響のある場所も必要だし、当然訓練された美しい発声も必要でしょう。それでも、曲自体が持つ何ともいえない不思議な雰囲気が人々の心に大きな印象をもたらすのだと思います。
しかし、譜面はいたってシンプル。ちょっと意地悪な言い方をすれば、作曲家が心に描いた効果以上のものを作るのに成功してしまった希有な例と言えるのかも。聴いて気持ちの良い箇所は、単に三つのパートが一拍ずれているだけなのですから。

それにしても、この気持ちの良さは何なのでしょうか?
無論、詩の内容ではないし、和声の面白さでも無いでしょう。敢えて言うなら音響的な美しさとでも言いましょうか。
しかし、逆にこの美しさは歌詞を持った合唱だからこそとも言えます。器楽で三パートに分かれてこの曲を演奏してもそれほど印象に残らないのではないかと想像します。それは、楽器ではあまりに音色が均質だからです。
歌は歌詞があることによって、常にその音色を変化させます。だから、演奏者がそれほど意識しなくても言葉によって旋律の抑揚がよりはっきり浮き立ってきます。そのため、対位法的に書かれた音楽を非常に際立たせることが可能なのです。

ポリフォニー、カノン、フーガといった時間軸上のずれを伴った音楽が、アカペラ合唱では非常に印象的に響く可能性があります。こういった音楽は、すでにルネサンス時代に様々な可能性が追求されているわけですが、今の時代でも、もっと今風のやり方で新しい音響を追求することも出来るかもしれません。

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