2006年3月25日土曜日

忘れないと誓ったぼくがいた/平山瑞穂

waschika2年前に日本ファンタジーノベル大賞を受賞した平山氏の、この本が受賞後第一作となります。前作の感想はこちら
受賞作である前作は、なんとも陰鬱でエログロ感漂う雰囲気だったのですが、今回はまったく違います。高校生のプラトニックなラブストーリー。文体も何となくポップ。前作は、会話の括弧をあえて使わずにべたに会話の描写をしていましたが、今回は高校生の軽い会話が括弧付きで書かれるので、ページ全体に空白部が多く、すらすらと読めてしまいます。この本なら3~4時間コースってところでしょうか。
実は、この作家のブログが結構面白くて、この本もついついその流れで買ってしまったのだけど、いやなかなか面白かったです。

忘れる、すなわち、記憶を失う、というのは、一種の恐怖なのだと思うのです。
私たちはささいなことをどんどん忘れて年を取っていきます。自分は忘れていても、他人が覚えていたり、あるいはその逆もあったりします。もちろん、思い入れがあるほど、物事は忘れないはずです。だからこそ、大事なものだと思っていたことを自分が忘れていたりするとショックもでかいし、逆に自分が大事だと思っていることを他人が忘れたとき、その意識の差に愕然とすることもあります。この本はそんなささいな日常の恐怖というものを拾い上げ、特殊状況に仕立て上げて、「忘れる」というテーマを多面的に表現しています。
もっとも、やはりこの小説の面白さは、ちょっぴりホロリとさせられるピュアな恋愛の行方にあるのかもしれません。そういう意味では結構売れ線を狙っている感じもします。ドラマ受け、映画受けしそうな雰囲気ありますしね(全体的に映像を意識している感じがする)。
それでも、私はこの作家が基本的に持っている「切なさ」の表現みたいなのが好きです。登場人物の何気ない所作や、言葉にリアリティがあって、それを支えている感性がなかなか私のフィーリングに合う感じがするのです。

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