2004年12月17日金曜日

ローズとハモンド

仕事の関係で、往年の名機と呼ばれる二つの楽器に触る機会がありました。
一つはローズの電気ピアノ。もう一つはハモンドオルガンB-3というやつ。いずれも60年代、70年代の音楽シーンを語る上でかかせない楽器です。
音そのものは、今でもシンセに載せられたりして聴いたことのある感じはあるし、当時の有名なアーティストが使ったあの音と同じ音だ、という楽しみもあったのだけど、個人的にはあれを作り上げた技術者魂みたいなものに感銘を受けたのです。
両方とも、今から見れば恐ろしく不安定な楽器で、例えばローズなど、買ったばかりではまともな音が出なかったらしいのです。蓋を開けて、一つ一つの鍵盤についている音叉のようなものを締めているネジで音を調整しなければいけません。また、各鍵盤の消音用のフェルト部分もかなりバラつきがあって、ここも調性が必要。実際に音を出す鉄の棒にも針金のようなものが巻いてあって、この位置を変えるとピッチが微妙に調整できるのです。
ハモンドのほうは、音に関する不安定さはそれほどないのだけど、例えば近接するトーンホイールがクロストークしてしまい、鍵盤のピッチとは違う、若干の変なピッチの音が聞こえてきます。電源を入れるときも、車のエンジンみたくスタータを廻さないといけないんです!
いずれも、電子技術が無かった頃の話なので、技術的には仕方ないにしても、これだけの仕組みを電気的、機械的に作り上げたそのアイデアと努力は、ひしひしと伝わりました。電気を使うとはいえ、これはやはり生楽器なのです。楽器というのは、本来常にこういう不安定さと紙一重にあって、それが使う側の愛着を誘ったり、その人にしか出せない音を生む原動力になったりするわけです。
ローズもハモンドも時代の流れに淘汰され、今では影も形もありません。しかし、こういう楽器を作りたいという設計者の意志があれば、今の時代だってもっとクセのある面白い楽器が作れるのだと思います。私としては、ビンテージ物のこれらの楽器の音色を単に礼賛するより、そういったこだわりを持って楽器を開発したその意志にロマンを感じてしまうのです。

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