2014年5月24日土曜日

楽譜システム再考

現状、音楽を伝達する方法としては五線で楽譜を表現するしかないのですが、以前よりこの五線の表記システムは合理的では無いのではないか、という気持ちを感じることがありました。
五線表記システムは歴史の中で確立されてしまい、文化として根付いてしまったため、必要悪として残っている、というように考えている人も多いのではないかと思います。
最近では、DAWのピアノロールのほうがよほど音楽情報をシンプルに表現している、と思う人もいるかもしれません。

しかし、本当に現在の楽譜の五線表記システムが良くないものなのでしょうか。
一旦冷静に考えてみると、意外と合理的で他に代替手段が無いようにも思えてきました。
以下、具体的に考えてみたいと思います。


一つは、線を5本引いて、その上に音程を丸の形で表記するという仕組みです。
なぜ、5本なのでしょう。
DAWのピアノロールをもし紙の上で書いたら、たくさんの線を横に引かなければいけません。あまりに線が多いと、どの位置がどの音程かとても分かりにくくなります。
初見演奏などを考えると、線が五本以上あると視認性がとても悪いのではないでしょうか。

上はいわゆるネウマ譜という現在の五線ができるちょっと前の楽譜ですが、この時代は線が4本です。恐らく、最初はもっと少なく二本とか、三本だったのかもしれません。
これが五本を超えた辺りでストップしたのは、六本以上では視認性が悪く淘汰されたのではないかと思うのです。(調査したわけではないので分かりませんが)


もう一つ,多くの人を苦しめているものとして調号のシステムが挙げられます。ご存知、調号とは下図の表のようなものです。
現在の楽譜は絶対音高を表していますが、その位置はドレミファソラシの7音ベースで表記され、中間の位置はシャープやフラットを使って音の上下を指示します。
これも最初から12半音分の表記が出来れば、調号や変化音の指示はいらないのでは、と思う人もいるでしょう。



これについては、音楽理論を重視する人からは、調性の表現が出来なくなることに反発が出るでしょう。作曲家がこの音楽をどの調として認識しながら作ったのか、調性の中で各音がどのような役割を担っているのか、という表現が12半音表記では欠落してしまうからです。
逆に私としては、今の楽譜表記では、各調の表記が非対称なのがあまり嬉しくないです。
つまり、ハ長調とイ長調を同じ気持ちで読みたいのに、楽譜が絶対音高を示しているので、調毎に頭を切り替えて読む必要があるのです。
しかし、私の要望に完璧に答えるには、楽譜が階名ベース(移動doベース)で表記されている必要があり、さらに音楽する人たちを混乱に陥れてしまうことでしょう。

これは私の推測ですが、昔は音名と階名が未分化だった時代があったのではないかと思うのです。
実際の音のピッチを伝える手段が思い付かなかったため、地方や時代によって音高はまちまちでした。だから、階名も音名も微妙に問題を孕みつつも、同じような意味で使われていたのではないでしょうか。
ところが、楽譜システムがある程度標準化され、楽器が国境を越えて伝わるようになると、音程に対する不整合が問題になってきます。
その時点で、楽譜は絶対音高表記となり、これに調号や変化記号を付けて、調性を表現するようになったと思われます。

このように考えてみると、現在の五線表記は実に合理的にさえ見えてきます。
世の中の様々なニーズを捉えながら、どの要求もそこそこに満たしているからです。

また、五線譜はト音記号とヘ音記号の組み合わせで88鍵あるピアノ音楽さえ表記出来てしまいます。上下の加線による表現はやや厳しいですが、使用頻度を考えると落としどころとしては仕方ないのでしょう。


冷静に考えると、今の五線表記は実に合理的であり、当面は五線システムに変わる楽譜の表記方法はそう簡単には開発されないのではないでしょうか。
また、音楽は一種の言語のようなものであり、一度身に付いてしまったシステム以外のものを簡単に受け入れることは大変難しいものです。

私たちも先人の知恵にあやかり、この五線システムに対して敬意を持って接していくべきではないかと改めて考えた次第です。

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