2011年8月7日日曜日

聞こえる音と出す音の関係

しばらく合唱団の並びの話を書きました。
特に少人数の団体の場合、並びによって随分音楽が変わってしまうことはあります。
その理由は、単純に並びを変えたことによる音響の違いだけではありません。団員各人の耳に聞こえる音が変わるために、各人がそれに合わせて無意識のうちに自分の音量を変化させているからです。

人は聞こえる音によって、自分の出す音を無意識に変えます。これは、日常生活でも良く経験すること。
例えば、うるさい人混みの中で携帯電話を使って通話したとき、あなたの声は自然と大きくなっています。電話で話している相手は、なんでそんな大きな声で話しているんだろう、と逆に変に思うことでしょう。
なぜ、そうなるかというと、うるさい環境では電話の相手の声が聞こえづらくなります。そうすると、無意識のうちに話す人は、こちらも大きな声で話さないと向こうが聞こえづらいだろうと判断するからです。
飲み屋でワイワイ話すとき、人々の声は大きくなりがちです。それは周りがうるさいから、それに負けないように自分の声を大きくする必要があるからです。それと同じことを、無意味だと気付かずに携帯電話でもついついやってしまうわけです。

音楽でも同じ現象は起きます。
大合唱とかオケ付きのほうが一人一人は大きな声を出します。本当は、少人数のときこそ音量を出して欲しいのに、自分の耳に入る音量が小さいと、人はそれに応じて自分の出す音量を小さくしまいがち。
少人数で歌ってばかりの人がたまに大合唱団で歌うと、無意識に大きな声で歌ってしまい、後ですごく疲れたとか言うのは良くあること。
ただ、これは慣れの問題でもあるので、いつも大人数なら、いつも少人数なら、それに合わせてだんだん適正な音量になっていきます。
ですから、並びが変わったり、歌う場所が変わったりしたときの直後というのは、音量バランスが大きく崩れる可能性があります。

このことを各人や指揮者が知っているのと知らないとでは、心持ちや指示の仕方も変わってくるでしょう。
本番の舞台では、たいていの場合、いつもより聞こえる音が小さくなります。それは練習場では逃げ場の無い音を思う存分聞いていたのに、舞台では自分たちの出した音がホール全体に拡がり、自分の耳に届く量が減るからです。
また並びを変えたときも同様に、自分の耳に聞こえる音量が小さくなると、やはり小さい音量を出すでしょう。お互いが向かい合って歌っていたあとに、同じ方向に向かって歌うように変えただけで、聞こえる音量は随分減ってしまいます。そうすると、全体の音量も急に減ります。

そう考えてみると、なるべく本番と同じように歌う練習をするためには、本番と同じ並びで、かつやや響きの少ない場所、あるいは広い場所の片隅で(これはちょっと難しいかも)、練習をするということになります。
ただし団員が多い場合、少人数よりも音響の変化が少ないので、あまり大げさに考える必要はないと思います。特に少人数(30人以下)の場合、こういったことを注意する必要があるでしょう。

8/9追記
上記の話はあくまで一般論ですし、場合によってはここで言及していない条件に依存する場合もあります。
例えば、本番が良く響く場所で、自分たちの演奏が良く聞こえるのなら、練習も響きが多いところでやったほうが良いかもしれません。

あと響かないところで練習して、指揮者が本番での音響をうまく想像できないと、ひたすら音量を出せ、という指示をしてしまう可能性があります。この場合は、響かないところで物足りなく感じ、音量を出せと指示する指導者の感覚に問題があるかもしれません。

そういう意味では、響く場所や、響かない場所、いろいろなところで練習して、指揮者や個人の応用力を高めていく、というのは大切なことだと思います。

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