2005年9月17日土曜日

音楽の生存価/福井一

seizonka音楽そのものについて考察する場合、これまではどうしても哲学的、社会学的、心理学的といったような人文系アプローチが主でした。しかし、こういったアプローチは論ずる者の嗜好が強く反映されてしまったり、科学的な検証が必要な場合に不適当なデータ処理をしてしまうなど、問題が多かったのは事実です。また、芸術は崇高なものであり、その神秘を剥ぐことに抵抗を感じる、というような芸術至上主義が音楽愛好家には根強く存在し、音楽そのものの研究が偏見無く行われることは難しいのは確かでしょう。
この本では、まずそういった現状に対し、強い口調で非難します。そして、今こそ科学的視点から音楽を解きほぐそうと主張します。
実は著者の方向性は、私の感覚とおおむね同じです。私は、いつでも真理を知りたいし、適当な段階で神様を持ち出してそれで良しとはしたくないのです。その結果、この著者は進化心理学に興味を感じ、その学問が人間と音楽について何かしらの解答を引き出してくれるのではと期待しているようです。私も以前、進化心理学について、こんな談話を書きました。

そんなわけで、この本、音楽の価値をいかに「科学的」に解明するのか、それを論じた本なのです。
著者は音楽が人間の生存にとって、無くても良いもの、などではなく、人類進化の過程で必要があって生まれたものだという考えを持っているようです。そして、その考えを証明するために、様々な研究を続けています。
ただし、中盤以降、本の内容は脳科学中心になり、正直かなりしんどくなりました。
それでも、なかなか面白いネタはありました。例えば、男性ホルモンの一つであるテストステロンは、音楽と非常に関係が深いらしいのです。男性の場合、テストステロンが多いほど(男性的であるほど)音楽の能力は低くなり、逆に女性はテストステロンが少ないほど(女性的であるほど)音楽の能力は低くなります。つまり、一般的に、音楽家の男性は女性的でおっとりしていて(そういえばカマっぽい人も多いかも^^;)、女性は男勝りであることが多い、ということになります。さて、皆さんは納得しますか。
進化心理学の話が出た割りには、本のほとんどは脳科学を扱っており、若干肩透かしを食らった気分でしたが、全体的にはなかなか面白い本です。この分野の研究がすすめば、いずれ何故人は音楽に熱狂するのか、あるいはどんな音楽が人々を熱狂させるのか、そういったことがわかってくるのかもしれません。

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