2015年8月16日日曜日

ネアンデルタール人は私たちと交配した

ひと月ほど前、NHKスペシャル「生命大躍進」でネアンデルタール人の研究者として登場した研究者が書いた本ということから、この本を知りました。
一見、学術書のように見えますが、この本は著者スヴァンテ・ペーボ博士のほぼ完全な自伝書。
ある程度、細かい研究内容も書いてあるのですが、ペーボ博士がどのような紆余曲折を経ながらこの研究にたどり着き、そして大きな成果を上げてきたのか、私生活まで赤裸々に明かしながらも、その研究生活が克明に記録されています。

そして何より、一人の優れた研究者がいろいろな状況に翻弄されながら、様々な人たちに評価され、大きな仕事を任されるようになり、そして最後に素晴らしい研究内容を世界に公表する、という研究者としてのリアルなサクセスストーリーが、読んでいてとても爽快です。
スウェーデン人であるペーボ博士がアメリカ、ドイツと世界各国の研究所からオファーを受け、実力本位で重要な地位につけるというのは、タコツボ化した日本の大学研究室の状況とは一線を画しており、そういう点で大きな羨望を感じつつ、欧米諸国のリアルな研究の現場を知ることが出来るのも本書の面白いところ。(論文を雑誌に寄稿する際の様々な駆け引きとか)

そもそも、このペーボ博士は、単なる知識追求型の学者ではなく、とてもロマンチストな方なのだと思います。
医学や分子生物学を専攻しながらも、古代エジプト研究への想いを忘れられず、ついにミイラのDNA解析を始めてしまったのが、ペーボ博士のキャリアのスタートです。
古代への憧れとDNA解析を合わせることで、専門と興味を一緒にしてしまったのです。そして博士の興味はミイラからネアンデルタール人に向かいます。

それも、やはりロマンから来たものでしょう。
数万年もの間、人間とネアンデルタール人は不思議な共生期間がありました。それについては私も以前こんな本も読みました
その期間、お互いどんな気持ちで双方を感じていたのでしょうか?
ネアンデルタール人が最終的に滅びたのは事実ですが、だからといって単純に人間、ホモサピエンスがネアンデルタール人を駆逐したという結論とするのは乱暴すぎます。
そして、それに対する疑問の一部がDNAから明らかになったのです。

2010年、ペーボ博士のチームは長年の研究の末、ついにネアンデルタール人のDNA配列を発表します。
そして、さらに調査した結果、アフリカから出たホモサピエンスの中にネアンデルタール人由来の遺伝子が組み込まれていることが分かったのです。その遺伝子は、アフリカに残ったホモサピエンスには組み込まれていません。

つまり、ホモサピエンスはネアンデルタール人と交配、つまりセックスをしていたのです。
この感覚は、もうなんとも言えない不思議な気持ちですね。
何万年も前の人間が生きている環境も分からないし、ましてやネアンデルタール人の生態も分かりませんから、その事実が恋愛を伴うものなのかどうかもさっぱり分かりません。

でも、太古の出来事を夢想すること自体がロマンなのであり、こういう研究に心惹かれる気持ちは、私には理解できるつもりです。
今後も人類進化に関する幾つかの重要な発見もあるかもしれません。
ネアンデルタール人研究には、これからもロマンを感じながら注目していきたいと、この本を読みながら思いました。


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