2010年3月28日日曜日

1984年/ジョージ・オーウェル

1984強烈な幻想的ディストピア小説。政治色が強く、未来の独裁的な共産主義国家での出来事を描いています。とはいえ、これが書かれたのは第二次大戦直後くらいなので、当時からしたら1984年は未来のことであり、当時の近未来小説として読まれるべきでしょう。
正直、こういう救いのないダークファンタジーは大好きです。久しぶりに面白い小説を読みました。この作者の破天荒な想像力を堪能するだけでも、この作品を読む価値はあるでしょう。

一般に、この作品は共産主義に対する批判や、辛らつな風刺として読まれていると思うのですが……、恐らく著者が言いたい本質は、単なる共産主義批判ではないと私には思われます。
だいたい、このようなディストピアの状況をこと細かく設定し、挙句の果てには巻末に小説内で語られる新言語の説明まで入っているのを見ると、まるで嬉々としてこの地獄のような世界観の設定を楽しんでいるようにも思えるのです。ストーリーとして必要なものだけでなく、せっかくここまで考えたんだから、徹底的にこのディストピア設定を作り上げちゃおうという作家魂を感じるのです。

後半になってから、話はかなり観念的になり、そもそも人間は文明化したときから平等にはなり得ない、といったやや倫理観を揺るがすような論まで現れます。さらに、権力とはよりよい社会を作るための手段・・・ではなく、権力そのものが目的なのだと体制側の代弁者によって論じられるのです。
全体主義を倒した革命家が結局、独裁者になっていくという理不尽さ。しかも、より強固な統治システムを作り、民衆としては昔より生活が悪くなるといった状況に対して、著者は警笛を鳴らそうとする一方、ある種の諦念を持っているとさえ感じます。もはや、これは人間の悲しい性ではないかと。

青臭い理想的な政治を論ずる者たちを、鼻であざ笑うかのような小説。だからこそ、理想とは何か、日々悩んでいる若者に読んでみて欲しいと思います。
昨年ベストセラーだった村上春樹の「1Q84」はこの小説のオマージュなのだと思います。
それから、映画「未来世紀ブラジル」の世界観ととても似ていて、恐らく監督のテリー・ギリアムも1984のオマージュとしてこの映画を作ったんだと思います。

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