2013年11月10日日曜日

失敗の本質

Kindle版で「失敗の本質」という本を読んでみました。
タイトルが抽象的過ぎるので、いわゆる失敗学的な汎用的な話と感じるのではないかと思いますが、この本は実は太平洋戦争(文中では大東亜戦争と呼ぶ)時の旧日本軍の作戦の失敗の事例を研究した本です。

昨今、大手日本企業の迷走ぶりを戦争時の旧日本軍の戦術の稚拙さ、戦略の欠如と関連づけて語られることが増えてきているように思います。
私自身は戦記物とか、戦争時の戦略とか作戦とか、そもそも戦争に関わることは、これまでほとんど興味は無くスルーしていたのですが、電子書籍ならいいかとついついポチッとしてしまいました。

しかし、これは確かに面白い。
もし、自分が戦争の現場にいたらと思うと空恐ろしいけれど、こうやって本を読みながら、客観的に戦争の有り様を捉えてみると、教訓めいたものがいろいろ得られるものです。そして戦争というのは、大量の兵士と優れた兵器だけでなく、情報制御や補給など多面的な要素があることを思い知らされます。

本書は3章構成。
第1章は、具体的な事例の紹介。ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インバール作戦、レイテ沖海戦、沖縄戦、の6つの事例について、何が起きて、何が原因でどのような負け方をしてしまったのか、ということについて詳しく解説されています。
第2章では、その失敗の分析、そして第3章ではそれから得られる教訓がまとめられています。


いやー、しかしあれだけたくさんの人が死んだというのに、全くもって上層部では現場(戦場)とは別世界のまるで統制が効かない状況があったのですね。
考えてみれば、これは現在の企業活動でも同じ。現代の企業活動とのアナロジーは第3章でも語られていますが、現場がどれだけ頑張っていても、上層部では責任を曖昧にしたり、強硬な主張に誰も反対出来なかったり、相互不信が情報の流通を妨げていたり、そしてそういうことの連続が結局戦局を悪化させてしまった、という事実が赤裸々に描かれており、その教訓は今もなお有効です。

こういう世界の恐ろしさは、戦死は結局は数字でしかないということ。
ただし、そういう冷徹さが無ければ戦略もきちんと立てられない。
何しろまずいことは、自分たちは戦うためにその場所にいるという使命感から、死ぬ恐怖より戦いたいという意志が勝ってしまうことです。それは集団であるからこそ、そのような高揚感で現実感が見えなくなってしまうのです。
挙げ句の果てには、勝つための工夫よりも特攻、玉砕といった行動を礼賛する方向に向かっていきます。

インパール作戦での牟田口中将の言動なんて悪夢でしかありません。
戦争全体の戦略が無いまま、こういった思い入れの強い個人が勝手に戦争を動かしていたという事実が空恐ろしく感じました。


第3章でまとめられている内容は、まさに今の日本人に対する提言でもあります。
今と言っても、この本は1985年に第一版が出ているのですが、それでも内容が全く色褪せていないということは、日本人は25年前から、いや70年前から本質的には変わっていないということなのでしょう。
具体的には
・一度上手くいった方法が変えられず、組織内の規範が硬直化していく。常に自己改革できる仕組みが必要。
・戦略の不足。
・階層がありながら情緒的な人的結合で構成された組織。ロジカルな指揮系統が出来ていない。
といったようなこと。
どうでしょう。既視感ありまくりじゃないですか。

こういった私たちのメンタリティはそうそう変わるものとは思えませんが、しかし、その結果、太平洋戦争でどのような愚かな決断がまかり通っていたのか、それを知るだけでもこの本の価値は十分あると思うのです。


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