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2010年8月1日日曜日

終わりに

これまで「音のリクツ」を愛読して頂きありがとうございました。これにて、私が書きたかった内容は終わりです。

実際書いてみて、まだまだ説明が足りないところとか、文章が今ひとつ良くないところとか、たくさん心残りはあります。記事自体はネット上に残るわけですから、気がついたときに内容を少しずつ修正していきます。それから、なるべく図をたくさん入れるつもりでしたが、ちょっと面倒になって結局字が多くなってしまいました。これも、暇を見つけて図を足していこうかなと考えています。
そんなわけですので、一応終わりますが、まだまだ内容は修正していきます。今後もご意見ご要望がありましたら、何なりとご連絡頂きたいと思います。

私自身、音についてまだまだよく知らないことが多いですし、音声については研究も盛んですから、これから新しい事実がさらに出てくることでしょう。
一般の人が思っているほど、音声に関してはリクツが明瞭になっているわけではないのです。人の話した言葉をコンピュータが理解する(音声認識)という研究では、まだまだ人の理解力よりコンピュータの方が断然劣ります。
音楽を認識させようとしても、複数の音のピッチを取り出すこともコンピュータではまだ上手くできません。意外と基礎的なことも、まだ技術的には出来ていないことは多いのです。
まだまだ、音には私たちの理解出来ていない領域があります。そういう事実がこれからどんどん明らかにされるのを私は楽しみにしています。こういった情報も必要あれば、また追記したいと思います。

今まで書いた内容が皆様の音楽活動にプラスになることがあれば大変嬉しく思います。リクツを駆使して、良い音楽を奏でてください!

35.データの圧縮

同じように音声データを聴けるのなら、データ量は少ない方がダウンロードの時間も少なくても済むし、パソコンでコピーの時間も少なくて済むし、メモリの容量も食わなくて済みます。
特に動画、音声のデータは大きくなりがちなので、一般的にはこれらのデータは圧縮されることが多いのです。

これまで説明してきた音のデジタル化は全く圧縮されていない方法です。CDはこの方法です。これをそのままコンピュータのファイルにすると、WAVという形式になります。
圧縮したデータのファイルとしては、MP3、AAC、WMV等があります。これらは非可逆変換といって、一度圧縮されたデータを元に戻すことは出来ません。
元に戻せない圧縮なんてアリなの、と驚く方もいるでしょう。音声の場合、人間の耳の特性を利用すると、元に戻せなくても(つまり情報を削っても)ほとんど違いが分からないくらいに音を再生することが出来ます。そうすることによって、データのサイズは1/10程度まで減らすことが可能なのです。

では、どうやって音声データを圧縮しているのでしょうか?
一つは、ラウドネスカーブを利用しています。「22.音の大きさ」でも書いたように、周波数の低いところと高いところではレベルが低いと人の耳には聞こえなくなります。この辺のデータを間引きます。聞こえないなら消しちゃえ、ということ。
もう一つは、マスキング効果を利用します。人間は同じ周波数くらいで鳴っている複数の音のうち、音量の大きいほうを聞くという特性があります。これを利用すると、大きな音の周波数周辺のデータを少しくらい削っても、人間は気付くことが出来ません。
とはいえ、圧縮の比率を大きくしていくと、やはり音はだんだん悪くなっていきます。WAVのままが一番良い状態です。自分で録音したデータを後で加工するつもりなら、保存用には非圧縮の状態で取っておくことをお勧めします。

2010年7月26日月曜日

34.デジタル信号の流れ

デジタルは単なる数字です。当たり前ですが、耳元で数値の羅列を囁かれても、それは音楽としては聞こえてきませんよね。空気の振動を数値に変えたり、また数値を空気の振動に戻してあげる必要があります。
実際の音をデジタルで取り込むには、マイクが必要になります。マイクで録音した音声をデジタルにすることをAD変換(アナログからデジタルへ)と言います。逆に、デジタルのデータをアナログにすることをDA変換と言います。DA変換されアナログになった音声はスピーカーで本物の音になります。

つまり、デジタル音声を扱うには、AD変換とDA変換の必要があり、アナログの部分に音を入力するときにはマイクを、アナログ音声を出力するときにはスピーカーが必要になるわけです。
上図の「デジタル各種処理」とは、実際どんな処理が考えられるでしょう。
録音時の場合、雑音の除去、音量の補正、曲の区切りなどのインデックス付けなど、再生時の場合は、再生装置の音響補正や、再生機器の機能としての残響付加、サラウンド効果、といった処理が考えられます。

デジタルな音声システムにおいては、どのようなマイクやスピーカーが重要でしょうか?
あくまで私見ですが、デジタル化が進むほど、入力側のマイクの性能が重要になり、むしろ出力側のスピーカーの品質は重要ではなくなると考えています。
スピーカーの場合、部品の品質の低さをデジタルで補正することがある程度可能です。一般に小さいスピーカーでは低音は出にくいのですが、上図のデジタル処理の中で、低域を多めにしてあげれば良いのです。また、周波数によって出力にムラがあるようなスピーカーでも、ピンポイントでデジタル補正してあげることも可能です(イコライジング)。
一方、マイクの場合、録音時に欠落してしまったデータはあとで追加することは出来ません。ある程度の補正は可能でしょうが、後でデータを加工するのなら、オリジナルの録音はとことん高品質で録られる必要があります。
昨今、音楽録音用のICレコーダが一つの製品ジャンルとなり、各社から発売されています。マイクも会議用のショボいものではなく、音楽用の結構立派なマイクになっていて、録音機材の環境はかなり良くなってきています。こういった機材で生演奏を録れば、高品質な録音データが得られます。

2010年7月18日日曜日

33.横に区切る─量子化

次に波形を横に区切ってみます。波形を横に区切るということは、波形の振れ幅を調べるということになります。横に区切るのを細かくすればするほど、波形の振れ幅を正確に表現することが出来ます。

波形を横に区切ることを量子化といいます。サンプリングは時間を表しましたが、量子化では波形の振幅を扱います。

波形の振れ幅というと、どれだけ大きい音を記録できるか、というふうに捉える方も多いと思いますが、どちらかというとそれは逆です。つまり、どれだけ小さい音を記録できるか、というのが量子化の性能の高さを表します。
デジタルの特徴は、枠をはめるということです。
デジタルでは、最初から記録できる最大音量が決まってしまいます。ですから、どれだけ細かく量子化できるか、ということは、どれだけ小さな音が記録できるか、という性能になっていくのです。

一般に、記録できる最大音量と最小音量の差のことをダイナミックレンジと言います。現在のCDでは、横に区切る細かさは65536段階。ずいぶん中途半端な数字だと思うなかれ。コンピュータの世界では、非常に切りのいい数字なのですよ。一言でいえば2の16乗、つまり16[bit]のデータです。
ダイナミックレンジはデシベル[dB]という単位で表現します。振幅が2倍だと(つまり1[bit]あたり)6[dB]のダイナミックレンジを持つと表現します。従って16[bit]では、96[dB]。
つまり、CDのダイナミックレンジは96[dB]であると言うことが出来ます。

高音質なデジタル音声ということで2496(にーよんくんろく)などと、業界で言われる数値があります。これは、サンプリング周波数を96[kHz]に、量子化ビット数を24[bit]にするということです。これにより、情報(音声のデジタルデータ)は3倍にふくれあがりますが、縦横の区切りがより細かくなるので、音がさらに良くなるというわけです。

2010年7月17日土曜日

32.縦に区切る─サンプリング

波形を数字に変換するには、<図30-2>にあったように、グラフを縦にも横にも細かく分割しなければ(目盛りを入れなければ)いけません。ここでは、その分割の意味を考えてみましょう。

では、まず縦の線について。
波形は時間による波の位置なので、縦の線は時間の流れを表します。左側に行くほど時間は古く、右側に行くほど時間は新しくなります。



波形を縦に区切ることをサンプリング(標本化)といいます。もう少し丁寧にいうなら、サンプリングとは、時間を細かく区切って、その細かい単位で波形の位置を得ることを意味します。

問題は、その時間の細かさです。この細かさのことをサンプリング周波数といいます。サンプリングは一定間隔に周期的に行うので、それを行う頻度を周波数で表すわけです。
CDでは、サンプリング周波数は44.1[kHz]です。一秒間を44100回分割します。分割した時間の長さは割り算すると、約22.7[μsec]。一般的にはデジタル音声信号は44.1[kHz]のサンプリング周波数であることが多いですが、より高品質な音声信号が必要な場合、さらに細かく分割した96[kHz]が用いられる場合もあります。
サンプリング周波数については、サンプリング定理という重要な法則があります。デジタル化された音声は、サンプリング周波数の1/2までの周波数しか記録できないという定理です。
例えば、CDなら44.1[kHz]の半分、22.05[kHz]までの音が記録できます。96[kHz]なら48[kHz]までの音が記録できます。
以前も書いたように、人間の可聴域は20[kHz]程度と言われていますから、CDに記録できる周波数は人間の可聴域をカバーしていると言うことが出来るでしょう。

2010年7月16日金曜日

31.ビットとバイト

ややコンピュータの一般教養的な話になりますが、知らない人もいると思うので、デジタルの世界でよく使われる基本的な単位の紹介をしておきましょう。

これまで、コンピュータのデータは0と1の値で記録されると言ってきました。この0か1かが記録される一つの情報量をビット[bit]と呼びます。例えば、5ビットというのは、0か1かのセットが五つあります。数学的に言えば、5桁の二進数です。十進数で言うと2の5乗、すなわち32までの数を格納できるということになります。

バイト[byte]はビットが8つ集まったものです。つまり、8桁の二進数です。十進数で言うと256。1[byte]の情報は1〜256までの数字を格納できるということです。

このようにコンピュータの世界では二進数が大活躍します(コンピュータ関係のエンジニアは二進数の代わりに、より使いやすい十六進数を用います)。一般の方は、二進数なんて当然使わなくてもいいのですが、コンピュータを使っていると、ときどき二進数を意識することがあります。
十進数で切りのいい値は、1,10,100,1000,10000といった数値ですが、二進数で切りのいい値を十進数で言うと、1,2,4,8,16,32,64,128,256,512,1024といった倍々の数字になります。
確かにパソコンのスペックってこういう数字が多いですよね。USBメモリやヘッドフォンステレオなんかもこういう数字がよく使われます。これは、コンピュータの世界では容量が常に2倍単位で増えていくからです。

通常、純粋にデジタルデータの容量を表現するときには、ほとんどの場合バイトを使います。ではビットはどんなときに使うかというと、より技術的な話になるのですが、一度に処理できるデータの桁数を表現するという用途が多いようです。

2010年7月4日日曜日

30.デジタルで音を表す

結局デジタルとは、情報を数値化するということです。音の情報も数値化さえ出来ればデジタルにすることができます。

では、音はどうやって数値化するのでしょう?
これまで何度か音を波形で見てきました。そうです!この波形をそのままデジタルにすればよいのです。波形のグラフを小さなマス目に描き、その位置を数字に記録していきます。当然マス目が細かいほど、元の音に近くなっていきます。

では、試しに波形を数値化してみましょう。
ある瞬間の音の波形を録ってみました(図30-1)。特にこの波形の赤で囲った部分をデジタル化してみましょう。

<図30-1 ある音を録音する>

上記の波形を拡大し、それを縦と横に線が入った方眼紙の上に置いてみます(図30-2)。

<図30-2 方眼紙の上に波形を置く>

縦の線と波形が交わる部分に途中まで赤く点を付けてみました。
この点の横軸の値を読み込んでいき、その数値をひたすら並べればデジタルデータの完成。これが音をデジタル化する作業です。

CDの中には、この数字の羅列が延々70分以上記録できるようになっています。CDを顕微鏡で見れば、アルミ箔の上に小さな凹みが付けられているだけです。この凹凸が0か1かを表し、それを10進数化すると、上記の数値が現れるというわけです。

2010年7月3日土曜日

29.デジタルとは

デジタルという言葉の印象は巷では必ずしも良くありません。
IT技術や、コンピュータや、インターネットを想起させ、そのブラックボックス化したシステムの中で勝手に大事なものを触っているような印象があるのでしょう。しかし、10年後、20年後、確実に世の中は変わっています。あなたが望まなくても、世の中のデータは全てデジタル化されていくことでしょう。

じゃあ、そもそもデジタルって何?と聞かれると、結局、概念的な答えになります。単純に言えば、コンピュータが扱えるデータ、のことであり、定義通りに言えば、0と1のみで構成されたデータということになります。コンピュータの中では、電子回路内の電圧が高い、低い(つまり0と1)だけで情報をやり取りするからです。
通常私たちが使う数は、二進数にすれば0と1のみになります。つまり、デジタルとは数字のみで作られたデータと言い変えることが可能です。

では、どうして、文字や、画像や、音を数字だけで表現することが出来るのでしょう。
これは一見、想像を絶することのように思えます。しかし、文字って何? 画像って何? そして音って何? ということを純粋に技術的に考えていくと、それほど大変なことでもないのです。
例えば、文字の場合は分かり易いと思います。全ての文字に番号を割り振ればよいのです。この割り振り方にいろいろ流儀があるため、コンピュータではときどき文字化けなんてことが起きてしまいます。

画像では、デジタル化したいデータを小さな正方形(画素、ピクセル)に分割します。小さな正方形では、色は一つのみです。例えば300万画素のデジカメは、一枚の写真に小さな画素が300万個あるのです。色の表現はRGB(赤緑青)の組み合わせで表現します。一画素のRの量、Gの量、Bの量を数値で表せば、その画素の色が決まります。その値を画素数分だけ持てば一枚の画像をデジタル化したことになります。

2010年6月26日土曜日

28.音楽家とデジタル音声

さて、これまでは音の物理的なリクツについて話してきましたが、ここから基本的なデジタル音声のリクツについて解説してまいります。

なぜ、それが重要かって?
好むと好まざるに関わらず、コンピュータは私たちの生活に欠かせなくなりました。なぜそうなったかというと、インターネットの普及が大きく影響しているからだと思います。
インターネットを通じて、世界中の情報を瞬時に得ることが出来るようになりました。また、各個人が世界中に向けて情報を発信することも可能になりました。

クラシック演奏の現場では、いつだってその場での生演奏が最も重要であることはこれからも変わらないでしょう。しかし、インターネットを利用すれば、最高の音楽体験でなくても、今まで聞くことが出来なかった遠い国々での演奏の動画を見ることが出来るし、隠れた名曲を見つけることが出来るかもしれません。
あなたが演奏家であるなら、地道な演奏活動だけでなく、インターネットを介して自らの演奏を積極的に世界に伝えることも可能です。もし、あなたに少しでも何か光るものがあるのなら、世界の誰かが気に入ってくれるかもしれません。会ったこともない人から賞賛を頂けるということは、身近な人がお世辞で言ってくれる意見とは違います。逆に辛辣な意見をもらうこともあるかもしれません。しかし、赤の他人の評価を真摯に受け止める度量は、そもそも演奏家として必要な資質。インターネットは生の真摯な意見を集める重要な道具でもあるのです。

いずれにしても、これからの音楽家はインターネットを介して、世界中に自分の演奏活動を積極的に紹介していくべきだと私は考えます。それによって、ネット上に様々な音楽コンテンツが増えていくことが、音楽文化の発展に寄与することになると思うからです。
そのための大きな関門は、音楽家のコンピュータリテラシーです。特に、クラシック系の方はコンピュータが苦手という方が多く、自らの演奏の音声や動画を編集してネットにアップする、ということが誰でも出来るというわけではありません。
ここからは、ネットにアップするという具体的な方法の前に、どうやって音がコンピュータで処理されるのか、その基本的な理屈を解説します。基礎がわかっていれば、具体的な方法も分かり易くなり、何より日々変わっていく技術の変化にもついていきやすくなるからです。

2010年6月17日木曜日

27.音の聞こえる方向

巷では3Dが流行っています。専用メガネをかけると画像が浮いてくるというアレ。3Dの映画では臨場感溢れる映像を楽しむことが出来ます。
ところが、オーディオの世界では、すでに3Dは達成されていたのです。音における3Dのことを、ステレオと言います。
ステレオスピーカーで聴くと、音に広がりが生まれ、それが音の良さを感じさせるのです。

二つの目が映像に遠近感を与えるのと同様、二つの耳によって人間は音の遠近感や、音が来る方向を感じることが出来ます。
では、人間はどうやって二つの耳で音の来る方向を感じているのでしょうか。
実際には、たった一つの要因ではなく、これまで書いてきた音の性質を総合的に分析して方向を判断しています。
まず一つ目に、音には速さがありますから、左右の耳に届く音の時間もほんのわずかに違います。時間差は少なすぎますが、二つの音はわずかに波形がずれていて、そのズレが方向性を感じさせるとも言われています。
次に、当然音に近い耳の方が、音が大きく聞こえます。音源が近ければ音量でも判断できるでしょう。
さらに、音は回り込む際に高周波成分が失われます。音の聞こえる方向に近い耳と、そうでない方の耳で、やや聞こえる音の周波数成分が異なります。これによっても音の方向性が知覚できるようです。
さらに、もう一つ言うと、人間は常にかっちりと頭の位置を固定しているわけではありません。むしろ落ち着き無く、いろいろな方向を向いたりするものです。どこからか音が聞こえたときはなおさらです。そんなとき頭の位置を変えれば、音の聞こえ方も変わります。頭を固定している時に比べれば、頭を動かせば、音の方向性を判断するための多くの情報が得られるはずです。
人はそうやって、落ち着き無くきょろきょろと頭を動かすことによって、音が来る方向を察知しているのではないでしょうか。もちろん、これはすべて無意識に行われており、総合して判断した音の方向だけが人の意識に上ります。

音が聞こえる方向を音楽制作時に意図的に制御することをパンニングと呼びます。方向そのものはパン、あるいは音の定位とも言います。現在では、パンの操作も音楽作りの重要な要素の一つとなっています。
様々な方向から音が聞こえてくれば、音響は立体的になり、それ自体が何らかの意味を帯びてくるからです。

2010年6月13日日曜日

26.音の共鳴

共鳴があれば音は大きくなります。
だから、多くの人は音楽には共鳴があればいいと考えていると思います。
じゃあ、その共鳴って何?と問われると、豊かに響いている状態とか、音が満たされている状態とか、やや情緒的な答えが返ってきたりします。しかし共鳴とか、共振とかいう現象は、物理的にはもっと明確なものなのです。

身の回りで共鳴を感じやすいのは、お風呂場。お風呂場で低い音から少しずつピッチを上げて「あー」と声を出してみてください。ときどき、特定のピッチのときに音が大きくなることがあることに気付きませんか?
お風呂場はたいてい密閉度の高い空間なので、音が良く反射します。このような場で音を出すと、ちょうどお風呂場の寸法と音の速さが割りきれるような周波数で音が共鳴するのです。
中で共鳴している状態で生まれている音の波形のことを定在波と呼びます。管楽器では、この定在波を作って音を出しています。こういった音の実験は高校の物理の定番ですね。

ここでポイントなのは、閉ざされた空間という点。
音がある閉ざされた空間内に入ると、共鳴を起こしやすくなります。ギターやバイオリンが本体内に空洞を持っているのはまさに共鳴を起こすためです。もちろん、音楽ホールも同様の効果があります。
もう少し小さな例ならば、人間の口や鼻の中の空間。単なる声帯の震えが、口の中の空間を経ることで、人の声らしい音色に変わるような共鳴を起こします。

共鳴は空間ばかりではありません。
モノ(固体)も特定の周波数で震えやすくなったりします。この周波数のことを固有振動数と呼びます。そのモノの固有振動数と同じ周波数の音を与えると、そのモノは自分も震え始めます。
これも理科の実験の定番ですが、二つの同じ音叉を用意し、片方を叩くと、もう一つも共鳴して震え始める、というのがありましたよね。

2010年6月1日火曜日

25.音の回り込み

これも音を知る上で大事なことです。回り込みは、別の言葉で回折とも言われます。
音は基本的にまっすぐ進みますが、音源が影に隠れると全く聞こえなくなるわけではありません。音は、どこかの隙間を通り抜けて、そこからまた四方に拡散します。これは、端から見ると音が空間をカーブして伝わってきているようにも見えます。

この回り込みに関しても、周波数が依存しています。
ざっくり言えば、周波数が高いほど(音が高いほど)、直進性は高まり、回り込みは少なくなります。逆に周波数が低いほど、音は良く回り込むようになります。ですから、音源が影に隠れると、音質が少し曇ったように変わります。人はそれを聞いて、音源が動いたか、自分が動いたかを認識できるわけです。


同じことは電波にも当てはまるのです。
例えば周波数が低いAMラジオの電波は至る所に回り込んでいるので、たいていどの場所にいても聴けます。ところがちょっと周波数が高いFM放送になるとアンテナをたてないと聴けない場合があります。さらに周波数の高いテレビの電波は屋外にアンテナを立てます(最近はケーブルテレビが多くて、そういう感覚も薄れてますが)。
現在の放送で最も周波数が高い衛星放送(BS,CSなど)に至っては、電波を発する人工衛星の方向に向かってパラボラアンテナを設置します。その向きが少しでもずれると電波を上手く受信できません。そのくらいの周波数の高い電波だとまっすぐにしか進めないのです。

だいたい近所迷惑な騒音は低音である場合が多いです。複雑な空間になるほど高音は届きにくくなる一方、低音はどんどん回り込んでなかなか減衰しないからです。

2010年5月30日日曜日

24.音の反射

「反射」などというとすごく物理的で、興味を感じないかもしれません。しかし、実は音楽的効果として無視できないものです。

音の小さい状態ということで無響室の話を書きました。
無響室とは音の反射を極限まで減らした部屋のことです。壁中に吸音材が貼ってあります。この状態で、すぐ隣の人と会話しても、恐ろしく小さな声しか聞こえないのです。そのような経験をすると、私たちが日常、どれだけ音の反射の中で暮らしているか驚かされるのです。

音がどれだけ良く反射するかは、反射面の材質や形状などで決まります。
もちろん真っ平らで硬そうな壁は良く音を反射します。例えば、コンクリートとか、石、煉瓦などですね。一方、綿、スポンジ、グラスウールのように密度が薄く、中に空気をたくさん含んでいるものは音を良く吸収します。
また反射の度合いは周波数によっても変わります。
高周波まできっちり反射する壁に囲まれた空間では、音がシャカシャカするでしょうし、高周波をあまり反射せず低周波しか反射しない空間では、音はモアモアします。

音の反射の最も分かり易い例は、山びこです。「ヤッホー」といったら、「ヤッホー」と返ってくるアレ。
しかし、実際の反射の現象はもっと複雑です。閉ざされた空間だと、音は何度も反射するからです。何度も何度も反射した結果、私たちの耳には音の残響として聞こえてきます。つまり残響とは、音の反射が大量に重なった結果起こるものなのです。
当然、音が反射しやすい壁で、なおかつ大きな空間では、残響時間が長くなります。ちなみに大きな空間、というのはどこかの寸法が長いだけで十分です。例えば教会は人の座る面積がそれほど広くなくても、天井が高いことが多いので非常に残響が長くなるのです。

2010年5月15日土曜日

23.音の速さ

音楽家にとって、音の速さに関する知見は意外と重要です。
音の速さは、気温や湿度などによって変わりますが、まあだいたい340[m/s]くらいです。時速にすると1225[km/h]。

これをもう少し音楽的な数値に照らし合わせてみましょう。
例えば、舞台の幅が34メートルあるとします(かなりでかい?)。そうすると、舞台の端から端まで音が届くのは0.1秒(「距離÷速さ=時間」ですね)。音符でいうと、テンポが150[bpm]のときの16分音符分の時間です。
昔、トリビアって番組が流行っていたとき、「携帯ではデュエット出来ない」というネタがありましたね。携帯では相手に声が届くのにやや時間がかかります。この状態でデュエットするとお互いの声を聞き合うほど、お互いがお互いより遅く歌うことになり、アンサンブルが出来なくなってしまうのです。

あまりに大規模な舞台の場合、音の遅れによって奏者全員が同じ音を聞けなくなり、それによって生ずるアンサンブルの乱れはだんだん無視できなくなります。
もうひとつやっかいなのは、私たちが舞台で聞く音は、直接音よりもむしろ、ホール内で反響して返ってきた反射音であり、さらに音は遅れている可能性があるということです。
従って、ホールがでかく残響も多い状態で、奏者が散らばり、テンポの速い音楽を演奏すると、ビートの縦を揃えるのが難しくなるでしょう。その場合は、核になる音を中央に置くとか、指揮者がなるべく機械的に(明瞭に)テンポを示すなどの工夫が必要でしょう。

PAせずに行う生演奏では、会場の響きに音楽が左右されます。特に残響時間は音楽に大きな影響を与えます。このような効果を理解した上で、その場で最適な音楽を奏でていきたいものです。

2010年5月11日火曜日

22.音の大きさ

音が大きい、とか小さい、というのは物理的には、波形の振動の幅が大きいか小さいか、ということです。ですから、波形を見ればある程度の音の大きさは想像することは可能です。

音が人間の聞ける最大音量を超えるとどうなるでしょう。爆音のロックコンサートでスピーカーの真正面にいると、後で耳がおかしくなることがありますよね。あんまり酷い音量の音を聞くと、いつか耳の機能は破壊されるのではないでしょうか。
では、最小音量はどうでしょう。そもそも音のない状態、というものを想像できますか。一人で部屋に居て静かにしているとき、そんなときでも何かの音はしています。
音の実験などをするときに無響室という特殊な部屋を使います。無響室は極限まで音の反射を押さえた部屋です。無響室に入ると、あらゆる音が小さくなります。何か耳を圧迫されたような不快感です。これもまた自然ではあり得ない、人工的な状態です。そして、こういう部屋でないと、聞こえる最小音量を測定することは出来ないでしょう。

実は、物理的に調べた音量(波形の振幅)と、人間が耳で聞く音量は必ずしも一致しません。人は聞くことができる周波数の極限に近づくと、だんだん小さな音が聞こえなくなるのです。
人間の可聴域は20〜20000[Hz]です。ですから、20[Hz]付近の低音、及び20000[Hz]に近い高音では小さな音が聞こえなくなります。
可聴域という概念があるのと同様、人間が聞こえる最大音量と最小音量があるわけですが、それは周波数に依存しているのです。



聞こえる音量を周波数毎に記録したグラフをラウドネスカーブと呼びます。以下はWikipediaに置いてあるグラフです。

一番下の線が人間の聞こえる最小音量です。縦軸が物理的な音量(波形の振幅)で、赤いカーブは各周波数で人間が同じ音量だと感じる音量です。これを見ると、物理的な音量と人間の感じる音量に違いがあるのが分かります。

2010年5月8日土曜日

21.人間の可聴域

発声の仕組みについて説明したので、次は聞く方です。
つまるところ、人は耳で言葉や音楽を聴くのですから、人の耳が聞こえない音を出しても意味がありません。
人の耳には、どのような音が聞こえて、どのような音が聞こえないかを知っておくことは、音を極めようとする人にとって必要なことでしょう。

人間の可聴域は周波数でいうと、20[Hz]〜20000[Hz](あるいは20[kHz])と言われています。
しかし、これはあくまで理想的な環境(騒音がない状態など)の場合であって、実際に我々が知覚している音はもっと周波数の範囲が狭いものと思われます。
また、人は老化すると高い周波数が聞こえなくなります。どんなに有名な音楽家でも、耳がよいと言われている音楽評論家でも、歳を取れば高音は聞こえなくなります。もちろん多少の個人差はあるでしょうが、自分が思っている以上に現実は残酷なのです。

公園で深夜たむろっている若者を追い払うためにモスキート音を流している、なんてニュースがありましたね。モスキート音は17[kHz]くらいの音。20代くらいまでの若者には聞こえますが、それ以上の年齢になるとだんだん聞こえなくなります。若者には不快な高い音でも、年寄りには何も聞こえないのです。
もちろん、だからと言って高齢者は音楽鑑賞に不利だなんてことは無いと思います。10[kHz]くらいまで聞こえていれば、音楽活動にはほとんど支障は無いのではないでしょうか。

ちなみに、電話は4[kHz]までの音しか聞こえません。その程度の音の品質でも言葉を伝えることは可能です。電話は、音が少々悪くても、回線の使用効率を考えた結果、このような値になっているのです。

2010年4月30日金曜日

20.声と管楽器の違い

人の声は声帯が震えることで発せられます。
それはか細いけれど、倍音を多く含んだ音です。声が、のど、口、唇を通る過程の中で、その音にいくつかのフォルマントの効果がかけられていきます。
声のピッチが変わると、もちろん同時に倍音のピッチも比例して変わっていくのですが、フォルマントはピッチによる変化がありません。
これまで音色の違いは倍音の含み方の違いと言いましたが、声の母音の違いについて厳密に言えばフォルマントの違いというほうが正しいです。

一見、声という楽器は管楽器に似ているように思えます。
確かにリードを持つ管楽器なら、リードが声帯で、管の部分がのどから口にかけた部分と対を成すように見えます。
音のタネと、それを増幅する仕組み、という意味では上のアナロジーは間違いではないのですけれど、音程や音色の作られ方という意味では大きく異なります。
管楽器では、穴を指でふさいだり開けたりすることによって管の長さを変え、管内で共鳴する音程を変化させます。
ところが、人の声は声帯の張りを調節して音程を作ります。当然ながら、のどから口にかけての距離は大きくは変わりません。舌の位置や形状を変えることによってフォルマントを形成し、音色を作っていくのです。

やや余談ですが、ヘリウムガスを吸って話すと声が高くなりますよね。
ところが、これは声の音程が高くなっているわけではありません。他の楽器と一緒にアンサンブルすることは可能です。しかし音が高く聞こえるのは、音色が明るくなって、カモのような声に聞こえるからです。もう少し正確に言うならフォルマントが高い周波数に移動しているのです。
同じことを管楽器でやってみるとどうなるでしょう。奏者にヘリウムガスを吸わせて楽器を吹いてもらうと、音色は変わらないのに、音程が変わってしまいます。
詳細な理由は省きますが、人の声の音程は声帯の振動で、管楽器の音程は管内の空気の共鳴で作るので、そのような違いが現れるのです。

2010年4月28日水曜日

19.フォルマント

人の声の母音の判断はフォルマントによって行われます。
ではそのフォルマントとは何かというと、特定の周波数域だけを良く通すフィルターのようなものです。
例えば、一握りの砂から直径0.3〜0.6mmの砂粒だけ抜き出すとしましょう。最初に0.6mm以下の直径のツブだけを通す濾過器(フィルター)を通します。そうすると、フィルターを通った0.6mm以下のツブだけを得ることができます。次に、0.3mm以下の直径のツブだけを通すフィルターを通します。そうすると、フィルターの中に0.3〜0.6mmの砂粒だけが残ることになります。
同様に、音でも特定の周波数を通すようなフィルターをかけることが可能です。特に人の声において、このようなフィルターの役割を示すものをフォルマントと呼ぶのです。

人が声を発したとき、その音を分析してみると、周波数のグラフの上にいくつかのこぶが現れます。そのこぶの一つ一つがフォルマントです。それぞれのこぶを、小さい周波数から順に第一フォルマント(F1)、第二フォルマント(F2)・・・と名付けます。図は、私が「えー」と歌ったときのスペクトルです。各倍音のトンガリをつなげると、フォルマントの形が見えてきます。

<図19-1 筆者の「え」の声のスペクトル>

音声認識の学問の世界では、実はほとんどの母音は第一フォルマントと第二フォルマントの二つだけで識別可能だと言われています。例えば「あ」なら第一フォルマントが700[Hz]くらい、第二フォルマントが1400[Hz]くらいになります。この付近にフォルマントがある音は「あ」と識別することが出来ます。下図では、各母音と認識できる範囲を、二つのフォルマントから示しています。


<図19-2 第一、第二フォルマントと母音の認識>

ただしこの値は、人によって、性別によって、住んでいる地方によって、変わりますから一概には言えません。特に話し言葉の場合は、前の母音や子音などによってもフォルマントの位置が変わります。なかなか機械的に、この音なら「あ」と判断するのは難しいのです。
英語で、”o”の発音なのに、日本人には「あ」に聞こえたり、”a”の発音なのに「え」に聞こえたりするのは、フォルマントの分布が重なっているからだとも言えます。英語の”o”のフォルマントの分布が、日本語の「あ」とかなり近いところにあるのです。

2010年4月17日土曜日

18.言葉と音色

音色の違いというのは、つまり倍音の含み方の違いでした。
では人の声はどうか?
人間は言葉を使ってコミュニケーションをします。言葉も音です。声は全て波形に記録することが可能です。でなきゃ、CDも携帯電話も人の声を伝えることが出来なくなってしまいます。

例えば「あ」と話したときと、「い」と話したときは、物理的に何が違っているのでしょう?
今までの話からいくと、当然これも音色の違いであり、倍音成分が違っていると考えられます。実際のところ、大まかに言えばそれは間違ってはいません。
母音や子音などの各音素は、それぞれの周波数成分が違っていて、それで人は言葉を認識できるのです。

人の声は、まず声帯が鳴っているか、いないかで大きく分かれます。
声帯が鳴っている音を有声音、鳴っていない音を無声音と言います。有声音にはピッチがあります。無声音にはピッチがありません。
ピッチが無い、というのは波形に周期性が無く、明瞭な倍音が現れないということです。簡単に言えばノイズのようなものです。通常に話している場合では、子音の一部がこの状態になります。

ここでは、音楽に関わる音と言うことでピッチのある有声音について考えてみましょう。
有声音は当然倍音が現れます。母音毎にその倍音の現れ方が違います。調べてみると、「あ」は倍音が多く、「う」は逆に非常に倍音が少ないことがわかります。
<図18-1 筆者の「あ」の声>


<図18-2 筆者の「う」の声>

上のグラフは私がマイクで「あー」「うー」とEくらいの音程で歌ったときのスペクトルです。グラフ中のとんがった部分が倍音。「あ」と「う」では各倍音の量が違っていることが分かります。
では、単純に何倍音が含まれている、という法則で母音の判断がされている、というと実はそうでもないのです。

2010年4月8日木曜日

17.倍音とハモり

倍音とは、周波数が2倍、3倍・・・のサイン波のことでした。
ここで、周波数が2倍、3倍・・・という話題、ハモる音程のところで何度か出てきたことを覚えているでしょうか。ピッチの周波数が2倍、3倍である音程はハモるという話題です。ということは、ハモる音程と倍音というのは何か関係があるのではと想像できます。

もともと倍音とは一つの音に含まれている音の成分のことです。音程とは二つの音のピッチの違いです。
以下、ちょっとややこしくなりますが、頑張って読んで下さい。
二つの音、AとBがあるとします。AのピッチはA[Hz]、BのピッチはB[Hz]としましょう。
また、Aの倍音の周波数を下から順にa1,a2,a3・・・[Hz]とします。例えば、Aの5倍音はa5[Hz]です。Bも同様とします。
理系はこういう風に、いきなり具体的な数を使わずに抽象度の高い記号を使います。だってこっちのほうが分かり易いんだもの。

では、この辺りで上の記号に具体的な数字を入れてみましょうか。
A=400[Hz]、B=600[Hz]はどうでしょう。
BはAの1.5(3/2)倍の周波数ですから、完全五度の音程であることが分かります。それぞれの倍音の周波数を以下に書き出してみます。



Aの3倍音(a3)とBの2倍音(b2)が同じく1200[Hz]で、ピッチが同じですね。これはその昔数学でやった最小公倍数の問題でもあります。
つまり完全五度の音程は、双方の倍音に共通したピッチを持っている、ということがわかります。

「ハモる」理由については、所詮人間が脳の中で感じることですから、厳密なことはわかりません。ただ、比較的低い周波数に共通の倍音を持っている、ということが「ハモる」と感じる原因であるとは考えられるのです。