2005年8月26日金曜日

クムラン/エリエット・アベカシス

qumranかなり厚めの文庫本で、読むのに随分時間がかかってしまいました。
この本、主人公が失われた死海文書の捜索を行うというのが基本的なストーリーなのだけど、ミステリー仕立てながら、ついにキリスト教の誕生の秘密にまで到達してしまうという、とんでもない小説。これを若干27歳の女性の哲学者が書いたというのも驚き。
殺人事件も起きるから、まあミステリーと言えるのだけど、どちらかと言うと途中から読者の興味は、失われた死海文書にいったい何が書かれていたのか、ということに移ってきてしまうのです。そして、どうもその失われた古文書には初期キリスト教に関することが書かれていて、死海文書研究チーム、考古学者、雑誌記者、ユダヤ教のラビ、そしてローマの信仰教理省、といった面々が、入り乱れつつその古文書の行方を追っていきます。
といっても、話自体は全然ドタバタじゃない。主人公によるユダヤ教の神秘体験とか、神学的な討論とか、クムラン、エルサレム等の地から沸き立つ霊感の描写とか、そういうことに執拗にページを費やしていて、その感覚を楽しむためにはそれなりにキリスト教、ユダヤ教の知識が必要なのも確か。そして、それゆえにキリスト教圏でこの本が結構ヒットしたというのも頷けます。
何といっても、この作者、饒舌です。ストーリーの流れよりも心理描写や風景描写に異常なほど言葉を注ぎます。途中で主人公は女性雑誌記者に対して恋愛感情を持つのですが、この恋愛感情の描写にも相当力が入っています。それにしても女性作家が、男性の恋愛感情を綿々と綴ったり、宗教的修行にとって女が邪魔であるといった内容を延々と書いたりしているのは奇妙な感じがします。よほど、客観的に世の中を見る術が身に付いているのか、それとも単に男勝りなのか・・・

後半でキリスト教の秘密がだんだん明らかになるわけですが、いくらエンターテインメントとは言え、まあ、これだけの創作をよくやってしまったものですね。場合によっては、キリスト教徒を敵に回しかねないけど、純粋な知的好奇心を満足させるには十分に練られていて(作者のユダヤ、キリスト関連の知識には非常に驚きます)、今の時代ならそれなりに許されてしまうものなのかもしれません。

聖書やキリスト教、死海文書、といったキーワードに反応するようならこの本はお奨め。単なるミステリーと勘違いして読むとかなりきついかも。

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