2010年10月10日日曜日

有村ちさとによると世界は/平山瑞穂

先日、平山瑞穂の「プロトコル」について書きましたが、この本はそのプロトコルの外伝的作品。プロトコルで出てくる魅力的な4人の登場人物のエピソードを拡大発展させ、それらをおのおの4つの小話にまとめています。
著者にとっても、読者にとっても、このまま放置するには惜しいほどの個性的なキャラたち。そんな彼(女)らのストーリを堪能するほど、プロトコルで示されたパラレルワールドへ読者の想いを誘います。

さて、その4つの小話とは、主人公有村ちさとの父、元女性上司、妹、そしてちさと自身の後日談、となります。
ちさとの父、騏一郎は十何年もアメリカを放浪して暮らしています。ブラントン将軍との二人旅なのですが、ブラントン将軍とは幻影であり、恐らく騏一郎の分身的存在です。最初の話は、騏一郎がアメリカ放浪を止めるときのエピソード。ここでは、口からでまかせの騏一郎の話を真面目に信じる田舎のアメリカ人のバカッぷりが笑えます。特にアメリカで超有名な日本人イチローとの関係を話すくだり、そのデタラメさ、それを「本当なのか?」と聞いてくるアメリカ人との会話のナンセンスさはこの著者の真骨頂と言えるかも。
��つめのちさとの後日談も思わぬ展開で楽しく読めました。プロトコルで、最後にハッピーエンドになったはずのちさと。その格好良さそうで博学な好青年は、実はマザコンでボンボンだったという話。そんな彼氏に疑問を抱いているさなか、ふとした弾みで知り合った彼氏の知り合いとちさとは・・・というふうに展開します。あれほど厳格で、ルーズなものを嫌っていたはずのちさとなのに・・・、というオチです。

何しろ、平山瑞穂は、神経症的なまでの人々に対する細かい観察眼が秀逸だと思うのです。特に今回、全く性格の違う4人のストーリを並置して読むことにより、この著者の人物描写のバラエティな引き出しに全く驚かされたのでした。妹ももかだけは、平山瑞穂的繊細さで描写するにはいろいろ無理があるところはちょっと感じたけれど、でも「頭が弱い感じ」の人の行動パターンや思考法を論理的に解釈するという作業には敬服します。
しかし、この著者の小説には面白さとともに、常に副作用が伴います。いつも次のような気持ちにさせられるのです。「あぁ、ダメ人間万歳! みんなルーズに、それでも逞しく生きているじゃないか。そんなダメな人生をみんなで謳歌しよう!」と。

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