2010年6月19日土曜日

ゼロ・ビートの再発見(復刻版)/平島達司

0beatその筋では名著と呼ばれている、古典調律の解説本。副題には『「平均律」への疑問と「古典調律」をめぐって』と書いてあります。
タイトルのゼロ・ビートとは、二つの音を出したときのうなりが無い、ということ。例えば、200Hzと203Hzの音を同時に出すと、3Hzのうなりが発生します。音程がきれいな倍音関係で出来ていれば、変な音のうなりは発生しないのです。(「音のリクツ」参照のこと)

この著者の方は基本的に平均律を敵視しています。うなりのない美しいハーモニーを求めて、様々な古典調律の数字的な内容、音楽的な意味、そしてその響きについて解説しています。自身も自分の家のピアノを古典調律で調律するほど。また、無伴奏合唱に平均律のピアノは有害、と断言するなど、純正音程信仰が全面に醸し出されます。

とはいえ、調律は常に妥協の産物です。
先人が、どのような不具合をどのように解決するために新しい音律を作ったのか、そういった営みを読むにつれ、調律とは深い世界だなあと感じることが出来ます。
私自身なるほど、と思ったのは、その昔なぜ平均律で調律していなかったかという点。平均律の理論自体はずいぶん昔からあったのです。しかし、チューナーが無かった時代、調律師はうなりが発生しないように調律するしか無く、理論的な平均律で調律すること自体が難しかったのです。
逆に工業化が進んだ現代では、音程によってうなりが違う楽器のほうが調律時の効率が下がります。そう言う意味では平均律は、工業化時代、効率化、画一化、汎用化、といった現代的な特徴を兼ね備えているわけですね。

実際、多くの古典調律を聞き分けるのは至難の業です。そんな思いもあって、iPhoneの古典調律アプリを作ってみたわけですが、私自身は平均律をそれほど敵視しているわけでもありません。
残念ながら、実際の合唱の現場では、平均律を云々する以前のピッチ精度の悪さがあります。多くの人が普段から美しいハーモニーを聴く機会があれば良いのですが、ピアノ伴奏で流行歌を歌うような世界観のままではそれもままなりません。

それでも、歴史的事実として、また美しいハーモニーを追求しようとしていた昔の人々の想いを知るという点で、この本を読む価値は十分あるでしょう。数字は多少出てきますが、理系でなくても何とか読める本だと思います。

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