オルバンの"Daemon Irrepit Callidus"を練習する機会があったのですが、YouTubeで検索すると、まあ世界中のたくさんの合唱団がこの曲を取り上げているのが分かります。いまや隠れた名曲と言ってもいいかもしれません。
この曲の魅力は、ポップスに通じる今どきのビート感を持っているという点、それからモテットでありながらメロディや音の使い方にまさに悪魔的な毒を孕んでいるという点にあるのではないかと思います。
それでいて全体的な楽想がシンプルなので、味付けのしがいがある可塑性も演奏者のやる気をかき立てます。
そうは言っても、このテンポでオルバンの現代的な音程を正確に守ることは難しく、多くのアマチュア合唱団の練習では音取りに難儀するものと思われます。
しかし、実際歌ってみると、この音のハマらなさというのは、歌詞をさばくためのディクションやリズム感、発声のような基礎技術と関わり合っていて、テンポをゆっくりして音を取っても実はあんまり解決にならなかったりします。もっと、総合的な音楽に対する感性の高さが要求されるのです。
実際演奏の動画を聴いても、細かい音符で和音を感じることは難しく、むしろ音楽的にはリズムのキレの良さ、発語の深さのほうが強い印象を与えます。
これは、音符からもそういう傾向を読み取れるのです。
例えば冒頭のメロディ、3小節目の2拍目、7小節目の2拍目はアルトとソプラノが半音でぶつかっています。それから18小節目のアルトはCの方が和音感が高まるのに、Bbを続けるために敢えて9thの微妙な音を使います。30小節やエンディングの半音進行の部分も、各パートはあまり和声の帳尻合わせ的な音を使いません(それでも縦の和声も意外と変ではないけど)。
いずれも、縦より横の力学を重視した音の配置になっているように思われます。
あと楽譜からは、スラーの扱いに多義的なところがあって(同一シラブルの指定、フレージング、単語感をだすため?など)、若干演奏者を迷わせる部分があるかもしれません。
恐らく日本人には、この曲の鋭さを出すために言葉の彫りを深くさせることが大変難しいのではないでしょうか。特に「デーモン」の"d"の爆発具合、「エー」の開き具合を優しくしないことがこの曲の雰囲気を出すのに重要なことのように思えます。
この曲の表現の仕方について敢えて天の邪鬼的な発想をするのなら、私としては「悪魔に打ち勝つ強い心」を表現するのではなく、あくまで「悪魔」そのものを表現したいと思います。悪魔への対抗心はお客さんが感じれば良いのです。
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