今どき何でもアーティストと呼ばれる時代。20年くらい前は、J-POP系の人たちをアーティストなんて読んでなかったはずですが、今ではそう呼んでもすっかり違和感が無くなっています。
理容師がヘア・アーティストだったり、メイクさんがメイクアップ・アーティストだったり、多くの職種の名前にアーティストが付くようになった現在の時代感を、この本ではバッサバッサと痛快に斬ってくれます。
特に芸能人アーティストの章は、ここまで言っていいのってくらい辛辣。
やり玉に挙がっているのは、ジュディ・オング、八代亜紀、工藤静香、片岡鶴太郎、ジミー大西、藤井フミヤ、石井竜也の7人。ジミー大西には比較的好意も感じたけれど、工藤静香、片岡鶴太郎、藤井フミヤ、石井竜也あたりのけなし方は半端無いです。
まあ、そういう話を面白おかしく書いて話題になろうという気持ちもあるのかもしれないけれど、美術にずっと携わってきた人が、こういう芸能人アーティストの実際のレベルをどう見てるのか、という本音が聞けるのは興味深いことです。
私とて、絵画は門外漢ですから、芸能人なのに○○コンクールに入賞したなんて言われると「へぇーすごい才能あるんだねぇ」などと思わず言ってしまいますが、どんなことにもそれなりの裏はあるものですね。
率直に言えば、この本はアートをめぐる現実を冷静に分析したようなものとはちょっと違うと思います。
著者自身がアーティストして20年近く活動し、そして自らそのアーティスト活動を止めた経験をもっており、現実の社会の中でアートがどのように扱われているかを身を持って体験しています。
その著者の経験と、いまどきの風潮を、軽妙かつ辛口に綴ったエッセイ風の内容といったらいいでしょうか。美大の受験時の、予備校側の涙ぐましい努力のエピソードは、涙を流して笑えました。
それでも、長くアーティスト活動をしていた人の感覚は鋭いです。ジャンルは違えど、私もこの本が全体に纏っている雰囲気はとても共感できます。アートに対して人々が近視眼的に行動するとこうなるんだよ、という警告は、むしろアーティストになりたい熱を持て余している若者には、まだ身体では理解出来ないような気がします。
最終章、特に若い女性の自分語り的な、社会とかそういうものと無縁な「だって好きなんだもん」で完結してしまうアーティスト活動の話、本当に今の時代の雰囲気を表していると思うのです。
今や日本は慣性で回り続けるだけの思考停止した社会。これでいいのかと考えても、そういう行為が組織に負のベクトルを生んでしまいます。
そんなとき、若者が社会とのコミットを避け、自分の気持ち良いものだけを集めてそれをアートとして認められたらラッキーみたいな、どこまでも都合の良い感覚を持ちたくなる気持ちは理解出来ます。
やや本書と離れるのだけれど、最近は何かを作ることさえ、仕組まれたプラットフォームに乗せられて大量消費されるような搾取される側にいるような気がしてきました。
本当にクリエイティブなのは、社会のプラットフォームを作る側なのではないか、これこそが常識を壊したり作ったりする、現代の最も創造的な活動なのではないか、とも思えます。
著者が自らのアーティスト活動を止め、本を書いたり評論したりする気持ちも、ある意味、さらに大きな世の中の仕組みへの挑戦なのかもしれないと感じました。
私自身、現実にはサラリーマンとして生きているわけですが、長い目で見たとき単なるアーティスト活動というより、何か社会に繋がるような創造的な活動をしていきたいと改めて感じています。
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