12月のヴォア・ヴェールの演奏会で私が指揮して演奏する予定の「浦島太郎」(千原英喜作曲「お伽草子」より)の楽譜を読んでみましょう。
ページ数はそれほど多くないように見えますが、1曲演奏すると6分を超える結構ヘビーな曲。
この曲は明らかに、浦島太郎のストーリーを追うようにテキストが構成されています。従って、この作品の演奏においては「ストーリーを伝えること」が大きな目的の一つとなるわけです。
そのストーリーを追う鍵は、作曲家が細かく入れたテヌートにありそうです。テヌートをかけたストーリを導きそうな言葉を挙げてみると「むかし」「かめに」「これは」「かたみ」「はこ」「じんせき」「とらふす」などなど。いずれも、ストーリ上の重要な言葉です。その他のテヌートは、フレーズの入りの明瞭さやシンプルなタメを意図しているようです。
このようにアーティキュレーションをざっと見ていても、その場の気持ちだけで付けるというよりは、何らかの法則性を想起させるような知的な印象を感じます。
練習番号2からのアップテンポのフレーズの作り方は、千原節全開という感じ。和声より、鋭角的なメロディと2声程度のポリフォニーでぐんぐん音楽を進めていきます。ズレの成分が少ないので、かえって追いかけっこ効果が良く出るはず。音の美しさより、バタ臭さを出すべき箇所。ここ一番の音域の設定も合唱を知り尽くした感があります。
作曲者のシャレに思えるのが、練習番号8からのメロディ。その後何回か現れ、この曲の中心的な役割を担うのですが、これがなぜか沖縄調(ドミファソシドの音階)。千原氏は竜宮沖縄説を唱えているのでしょうか。日本人からすれば晴れやかな南洋の海をイメージするこの旋律は、やはり沖縄チックな雰囲気を出すべきなのでしょう。
最後の2頁、美しく感動的です。ヴォカリーズに現代的な泣きのコード展開があって、一見古い題材なのにこういった響きが共存しているところが千原英喜の魅力。最後の沖縄旋律の2回くり返しは、楽譜の指示だけ見れば、かなりのアゴーギグを強要しています。旋律がきれいに流れてしまうので、ついついさらさらと演奏しがちですが、ここはしっかりと指示通りのタメを作るべきだと思います。
しかし、歌っている方が頑張っているほど、残念ながら曲のストーリーは伝わっていません。この前、合唱祭で聞いている人にも「ストーリーはわからなかった」と言われました。まだまだ精進の必要があるようです。
どうやったら言葉が伝わり、結果的にストーリーが伝わるのか、その技倆を試される曲だと思います。誰でも知っている昔話ですから、合唱団の表現力を高めるのに、とてもいい教材になるような気がするのです。
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