承前、思いがけず県のアンコングランプリを取ってしまったわけですが、曲の力も大きかったなあ、とあらためて思います。というわけで、アンコンで歌ったジャヌカン「鳥の歌」の面白さの秘密を考えてみましょう。
何といっても、鳥の鳴き声を歌で真似てしまおう、というのが、この曲のアイデアの大元にあるのは誰もが認めるところ。
しかし私の思うに、この曲の本当に素晴らしいところは、そのアイデアをいかに強調し、面白おかしく聞かせるかというその工夫にあるのではと思われます。そして、それはこの曲の構造に負うところが非常に大きいと思うのです。
では、この曲の構造について考えてみましょう。
曲中の終止を区切りとすると、曲全体は5つのセクションに分かれます。これを仮に、Sec.1~5 という形で呼ぶことにしましょう。
また、最初のセクションを除いた Sec.2~5 のそれぞれの構造は大まかに [A]-[B]-[C] と三つのブロック構成になります。ここで、各ブロックは
[A] - ベースから始まる主題
[B] - 鳥の鳴き声
[C] - 曲の中心主題
を表しています。
Sec.2~5 を通して、[A],[C] はほぼ同じ形(Sec.5のみ最後の[C]に一ひねりあり)、そして中間ブロックの[B]がセクションごとに違っています。
ここで一つ面白いことは、曲の冒頭、Sec.1 は [C] と同じであるということ。
単純に繰り返し構造を作るなら、[A]-[B]-[C] の構造を最初から始めようと考えるのではないでしょうか。ところが、冒頭が [C] であることによって、この主題が曲の中心であることが示され、[A] の主題が相対的に低い位置に感じられるようになります。そのため、その後同じ構造が繰り返されているにもかかわらず、有節歌曲的な雰囲気ではなくなり、繰り返しの頭である[A]の主題が出ても、曲の途中感がもたらされます。結果的に、曲全体の一体感が増していくのです。
もう一つ、[C]が中心主題であると感じることにより [B]-[C] の変化におけるカタルシスがより強固になります。「鳥の鳴き声」の喧騒が高まり、その緊迫感が増したところで、主題[C]が出現することに大きな快感を感じるというわけです。交響曲のソナタ形式等で、展開部が盛り上がったところで第一主題の再現部が始まるときの快感に近いものがありますね。
[B]のバリエーションもなかなか工夫されているように思います。[B]の長さを小節数で見てみると、Sec.2-10、Sec.3-18、Sec.4-30、Sec.5-16 となります。
長さ、及び喧騒の強さ、派手さという意味で、Sec.4 の鳴き声がこの曲の頂点となります。まさに「起承転結」を地で行く構造と言えるのではないでしょうか。
鳥の鳴き声にバリエーションを持たせる一方で、[A]、[C]の主題はほとんど無変形であることも、この曲の構造を分かりやすくさせていて、聴く側のテンションをうまく持続させているようにも思えます。
もちろん、ルネサンス期の音楽ですから、文化的なバックボーンや、当時の常識、という視点も必要なのでしょうが、現代の人々が聴いても楽しく感じられる普遍的な仕組みがこの曲には備わっているに違いありません。
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