脳科学の最前線について、中高生に講義した内容をそのまま収録した、というのがこの本の記述方法。
内容は正直言って、かなり深いです。それが、講義という形式のため、しゃべり口調になっていて柔らかいので、何となく頭に入ってきやすい。それに、話もときどき脱線していて、あたかもその場で講義を聞いていたような気分になったのが面白かった。そういった本の構成のうまさが良い方向に作用したように思います。
講義を受けていた中高生がやけに理解力が高いのは、講義をした学校のせいなのかはわかりませんが・・・
いくつか興味深いポイントはあるのだけど、身体が脳のあり方を規定している、という考え方は、重要な点だと思います。確かに脳が身体の動きを制御しているのだけど、それは逆に言えば、身体からの刺激が脳を働かせているとも言え、脳はそれに見合うように成長していくわけです。
ここで池谷氏が示唆している話が面白い。神経細胞をコンピュータでシミュレーションすれば人工知能のようなものは出来るかもしれない。しかし、人間と同じ身体を持たないコンピュータ上に作った意識は、人間には理解できないような意識が出来てしまうかもしれない、といった内容。
私たちは、自分たちが頭の中で考えている内容を、自由意思などといって、全て自分の意識で制御可能だと思っているわけです。ところが、そういった判断の一つ一つが実は生物としての基本欲求から来ていたり、脳内のあるランダムな要素で説明できる可能性があるのです。
そういう意味では、自由であると思っている「思考」までも、人間という枠組みから逃れることは出来ないのだと思います。
科学者論とか、研究論にまで話は脱線したりして、理系人間にはかなり楽しめる本です。科学は宗教かもしれない、というのは私も大いに同意。著者の学問に対する姿勢、研究ジャンルを超えた探究心には強く共感します。
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