20日に袋井市の月見の里学遊館うさぎホールにて開催されたゴスペルオペラ「トゥリーモニシャ」を観に行きました。
ゴスペルオペラと称していますが、観た印象はミュージカルと呼ぶのがもっとも妥当でしょう。また、作曲スコット・ジョプリンとありますが、実際のところオリジナルからはストーリーのネタと幾らかのメロディを拝借しただけで、ほとんど今回の公演のための演出家と音楽監督によるオリジナル作品と言ったほうがいいかもしれません。というのも、台本は全て演出家による日本語のものですし、音楽に至ってはJAZZバンド風の楽団用に作り直しているからです。
そもそもこの企画、妻が合唱指導をしているという縁で公演を観させてもらったのですが、袋井というお世辞にも都会とは言えない場所で、あまりに渋い演目を行っているので、難解な内容で人の入りも今ひとつかな、なんて思っていたのですが・・・今日、実際に観てビックリ!
台本も演出も俳優の演技も、そして音楽も、どれも一線級のプロの仕事です。しかも、内容も分かりやすいし、ユーモアのセンスもある。それでいてしっかりとヘビーなメッセージを含んでいたり、意味もなく音楽がアバンギャルドだったりと、ちゃっかりと一線級のプロが自分のやりたいことをやらせてもらったという質の高さを感じました。
これなら、一般のお客さんにも十分楽しめるし、演劇や音楽にうるさい人にとっても見応えのある内容だったのではないでしょうか。しかも、20日はほとんど満席!(21日はさらに人が入ったらしい)
ストーリーの舞台は南北戦争直後のアメリカ、南部の黒人による農園を舞台にしています。18歳の少女トゥリーモニシャがその知恵で、農園で働く人々と、働かずに魔術のようなことばかりやっている連中との痴話げんかを解決するというお話。ユーモラスなドタバタのように見せかけながら、自分で考えて生きていくことの大切さと、暴力に対して報復の暴力をふるっていては何も解決しないんだ、というメッセージが込められています。
私たちは、国際的な紛争に対して第三者でいるときには、上のように暴力に対して暴力のお返しするのは良くないと主張するでしょう。でも、それが自分の国のことならどうでしょう? 自分の近所の人なら? やはり、やられたらやり返そうと思ってしまわないでしょうか。
普段、倫理的なことを口にしている人も、いざ自分の身の回りに起きる小さな痴話げんかの範囲においては、感情が先走り倫理的な行動は取れないもの。この舞台では敢えて、そのようなスコープの狭い舞台背景としたことで、そんな個人の領域の判断を浮き彫りにします。だから、暴力で仕返ししないと言ったトゥリーモニシャの判断は、想像以上に勇気ある決断だったと皆が感じることが出来るのです。
もう一ついうと、この芝居で何度も現れる黒人の白人に対する引け目の感覚とは、我々イエローにとっても同じことで、脚本を書いた方の微妙な心持ちを感じたような気がしました。
さて音楽ですが、これがまた素晴らしい! もう楽団員一人一人が相当な実力者。バンド編成は、ドラム、ベース、ギター、ピアノ、サックスというオーソドックスな形でしたが、彼らが繰り出す音楽は変幻自在。Jazzはもちろんのこと、bluesっぽかったり、forksongぽかったり、もちろんゴスペルも。その一方で、フリージャズのようなアバンギャルドだったり、「運命」のパロディが出て来たり、もうやりたい放題。この手のバンドであるにも関わらず、随分アゴーギグが激しくて、指揮者とのあうんの呼吸がとても気持ちよいのです。しかし、音楽の分かりやすさといった大衆性は失っておらず、ファンキーな感じが誰が聞いてもカッコいい!と思える演奏だったのではないでしょうか。
私は演劇には詳しくないけれど、演出もセンスの高さを感じました。
終盤の神様かかしと4人組悪党の対峙のところ。4人組が逃げようとするところがスローモーション風だったり、かかしと4人組は向かい合っているはずなのに同じく観客側を向いている配置だったり、このあたりの演出は私のような素人には思い付けません。映画的な表現手法を演劇に取り入れた、という感じでしょうか。非常に現代的な演出手法だと感じました。
ときおり全員が歌って踊るシーンは、もうまさにミュージカルという感じで、良質のミュージカル映画を観たような感覚を感じました。
あと特筆すべきは、特殊技能を持った俳優さんたち。
特に、超ハイテンションな踊りと歌を楽しませてくれたゴスペル牧師と、クレイジーケンバンド顔負けの超ソウルフルなボーカルを聞かせてくれたトゥリーモニシャの父さん役の二人は印象的。もうあのシーンはこの二人がいたからこそ、構想されたのではないかというくらい、役者依存のシーンでした。あのパワーは本物ですよ。そこら辺の好き者の技ではありません・・・
しかしこれだけ質の高いミュージカルが袋井でたった2回だけ、というのはもったいないですね。東京でやればもっと評判になるかもしれません。こういった実力派の演奏家、俳優の人たちのふところがもっと潤うようになるためにも、また再演の機会があったらいいのにと思います。
日頃テレビで観るような俗悪なドラマに比べれば、エンターテインメントを持ちながら創造性の高いこういったミュージカルはもっともっと広く知られたらよいのに、と思いました。
この公演に尽力された多くの皆様方に大きな拍手をお送りいたします。お疲れ様でした。
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