なんだかビジネス書っぽいのですが、別の本で太田氏の著作に触れ、勢いで買ってしまいました。確かに、会社で社員をやる気にさせるにはどうしたら良いか、という視点で書かれているので、リーダー級のビジネスマンを対象にしているのでしょうが、本書では特に日本的組織についての一般論が多く、そのあたりは大変興味深く読めました。
もともと日本人論みたいな本は好きなのです。この中でも、日本人論の古き名著と呼ばれる「菊と刀」が何度も引用されていました。
特に著者は、組織内で人がやる気になるには、「承認の欲求」を満たすことが必要だと説きます。組織内の承認には「表の承認」と「裏の承認」があり、日本社会では「裏の承認」が重要視される風土があると言うのです。
「表の承認」とは、その人の能力や業績に対して周囲の人が認める、ごくストレートな意味の承認。ところが日本では「出る杭は打たれる」というように、この表の承認が組織の中ではうまく機能しません。「裏の承認」とは、組織の中で憎まれたり嫌われたり警戒されたりしないように振る舞う消極的な承認欲のこと。この裏の承認は、画一的な仕事をする時代ではうまく機能していたのですが、現在のように新規性、創造性が求められる時代には、逆に悪く機能してしまうのです。
そして、著者は、日本人もそろそろ「表の承認」でうまく組織を作っていくべきである、と論じているのです。
この本の題名だけ読むと、やっぱり大事なのはお金じゃないんだよね〜というように読めます。
確かに結論はそういうことなのですが、そこはきちんと本書の意図を読み解く必要があります。例えばプロ野球選手がなぜそれほど高額な報酬にこだわるのか、それだけもらっているんだから後1000万円上積みしなくたっていいのに、と普通の人々は思うのですが、彼らにとって金額が球団が考えている自分の価値であり、そこに拘ることが本人にとっての名誉、承認欲の現れなのです。
人は金額の多寡そのものを行動のモチベーションにするのではなく、お金が表す自分の価値、すなわち名誉をモチベーションとして行動するのだ、というのがこの題名の言いたいこと。
では、日本の風土を前提にしつつ、少しずつ組織を「表の承認」に変えていくにはどうしたら良いか、が後半でいくつか述べられます。なぜそれが表の承認に関わるか詳細な説明はおいといて、いくつか挙げてみましょう。
・「あなたはコレが一番」というように、各人の得意なことを認めてあげるような多様な承認の軸を作る。
・外の血を入れ、内部で硬直化した常識に疑問を持ってもらう。
・組織外に個人の名前を出す。
・担当者に裁量を与える。
・仕事のプロセスや組織内の功労を公開し、社内の曖昧な基準ではない形で人が評価されていることを担保する。
・客観的な評価に基づいて褒める。
他にもありますが、ざっとこのような内容が書かれています。
もちろん対象としては、会社組織を照準に入れているわけですが、より高いレベルを目指す音楽アンサンブルであっても応用は可能でしょう。
端的に言えば、怒っていても人は育たない、というか、怒る(怒鳴る)ことによって同質性を保とうとするのは「裏の承認」的方法ではないか、と感じました。上に立つ以上、ある程度の毅然さは必要だけど、どうやって人をうまく認めていくのか、そういう意識がリーダーには必要なのでしょう。
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