2005年12月6日火曜日

金春屋ゴメス/西條奈加

gomes第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞作品。
まず、そのタイトルがインパクトでかいです。「金春屋」は”こんぱるや”と読みます。人の名前だと想像は出来ますが、遠い異国が舞台なのかと思いきや、時は近未来の日本、しかも江戸時代の江戸を再現した街が舞台となると知ってまたびっくり。ゴメスの由来は「馬込寿々」という名前の真ん中を取ったあだ名で、これはなかなかのネーミングセンスだと思います。
設定としては、とある実業家が二十世紀初頭、「江戸」を建設し、そこでは文明から何から江戸時代を模した生活を始めます。その江戸国は日本から独立を宣言します。しかし国際的には認められず日本の属領となったのですが、日本側の好意で、独立国家として扱われることになるのです。
そのような大きな舞台装置がまず何といっても面白い。設定部分はさらっと終わるのでいろいろ疑問は残るとしても、近未来なのに電気も車も無いという落差はなかなか滑稽です。しかし、話はその大きな舞台装置そのものには向かいません。この江戸で発生した「鬼赤痢」という疫病をめぐって、金春屋ゴメスを中心とした長崎奉行所が調査を進め、これが人為的なものであることを突き止め、最後に犯人を見つけるというのが基本ストーリー。

物語が動き始めると、設定そのものの面白さから離れ始め、一般的なドタバタエンターテインメントと同じフォーマットをなぞり始めます。それはそれで心地良いのだけど、例年の受賞作品から比べると、いささか独創性に劣るように感じます。
出来れば、自然指向と先端医療の二つの反するベクトルでの悩みをもっと掘り下げると、深みのある小説になるのではないか、そんな気がしました。

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