題名からは想像も付きませんが、一種の音楽小説。
��0年代始め、テクノが流行り始めた頃、奇妙なメイクと衣装、エキセントリックなパフォーマンスで、NYで注目を集め始めたネモ・バンドにまつわるストーリー。主人公シュウが、このネモ・バンドに憧れ、そしてそのバンドの一員としてパフォーマンスを始めます。バンドのメンバーとの関係、葛藤を経ながら、ミイラ取りがミイラになる劇的な結末を迎えるのです。
面白いのが、このバンドのリーダー、クラウス・ネモは女声の音域までを持ち、ライブでもオペラアリアを歌ってしまうという設定。小説中にもカストラートについて言及する箇所があるのだけど、一見ロック、ポップミュージックを題材にしながら、随所でクラシック的な(あるいは古楽的な)題材が出てくるのが興味深いのです。(山之口氏のデビュー作では、バッハのオルガン音楽においても相当な薀蓄を垂れていたし・・・)
しかし、それにしても、この小説は何かしら得体の知れない臭いを持っています。この作家からは決して、デカダン的な要素は感じないのだけど、この小説が描く世界は、耽美的で、退廃的、そして背徳的。テンポの良い文体は、主人公の真っ直ぐな若者像を現しているのに、その内容のドス暗さとのギャップに戸惑います。純朴な青年がヤクでトリップしまくるんですよ。
しかし、その陰鬱さも、後半ミステリ風になっていく過程で薄れ始め、最後には落ち着くところにきっちりと落ち着くというのが、この作家のソツのなさなのでしょうか。そのあたり、実にうまいなあと思います。
最後の盛り上がりシーンで、バックに音楽が流れている様子は、まるで映画、演劇的。ポーの「アッシャー家の崩壊」も思い起こさせます。
どうも、ここに出てくるネモというアーティストには、実在のモデルがいるようです。その名も「クラウス・ノミ」。ネットで調べてみると、この小説では、現実のモデルが歩んだ人生をうまくデフォルメして利用しているのがわかります。確かに、いくら創作でも、いきなりデビッド・ボウイが小説内に出てくるなんて大丈夫?と思いましたから。
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