「ロングテール」「フリー」でITビジネスに関する大きな話題を提供したクリス・アンダーソンの新著。
この本では、インターネットの本当の威力は、それがモノ作りに影響を与えるときだといい、それがこれから本格的に始まると語ります。
ITが世界を変えたといっても、それは所詮ウェブ上のサービスでいろいろな事務仕事が効率化された、というだけのこと。
実際の経済活動で最も大きな要素は、何かモノを作ってそれを売ることであり、モノを作る以上は工場が必要であり、現状ではその世界まではITの影響があまり及んでいませんでした。
ところが、これからはIT革命がモノ作りに及んできて、経済活動全体に大きなインパクトを与えるだろうとのこと。大企業が工場を動かさなくてもアイデアと能力があれば、少人数でもそういったビジネスを起こしやすくなる環境が整のってくるだろうと予想しているのです。それは、産業革命と比較されるくらい大きな変化を世界に与えるのです。
この本の興味深い点は、今現在起こっているたくさんの例が書かれているということです。この例を読むだけで、世の中がスゴいスピードで変わっているということが分ります。
とは言え,これらは全てアメリカのこと。恐らく日本ではこのムーブメントはまだ非常にか弱い状態にあります。それは恐らく技術力とかの問題では無く、政治の問題だったり、大企業のガバナンスの問題です。
つまり、政治や大企業がそのような新しい世界をきちんと理解しない限り、社会全体がなかなかそちらの方向には向かないのではないかという懸念を感じてしまうのです。
では、そのアメリカでは何が起こっているのか。
なんとクリス・アンダーソン自身が自動操縦できる模型飛行機を作って、それを数億円規模の事業に成長させたようなのですが、その例が克明に紹介されています。
ポイントは、開発をオープンにするということ。ソフトウェアを公開してしまうオープンソースはもちろんのこと、模型飛行機の設計図自体も公開してしまいます。オープンハードウェアです。そして、この公開された設計図を多くの人が閲覧し、修正してくれるためのコミュニティを作るのです。
このコミュニティに参加する人は従業員ではありません。
模型飛行機が好きな純粋なマニアであり、むしろ消費者側にいる人たちです。彼らが積極的に開発過程に関わってしまうのです。一人一人がマニアなので、語られる内容も濃いし、本当に自らが欲しいと思うものに近づけようとします。
開発コストはほとんどタダだし、コミュニティ自体が宣伝・営業としても機能します。コミュニティに対する貢献度合いによって多少のサービスは提供されるのですが、それでも自分のアイデアが製品に採用されるだけで、コミュニティに参加している人は大きな満足感を得られます。
開発をオープンにして、消費者を巻き込んだコミュニティを作る、などという発想は今の日本企業には求めるべくもありません。
それは、モノ作りかくあるべし、みたいな古くさい発想から逃れることが出来ないくらい頭が固くなっているからです。
後半では、すでにアメリカで大きなビジネスになっている各種サービスが紹介されています。
例えば、MFGドットコムという企業は、設計図を送るだけで、たくさんの工場からの見積もりを集めるというサービスを行なっています。つまり、自分で設計書まで作ることが出来れば、後は一番安く作れる工場を簡単に見つけることが出来るのです。
ITサービスを使ってこのようなサービスが一般的になるということは、モノを作るあらゆる行程が断片化され、ビジネスとして成り立つような環境に変わっていくということです。
この例のポイントは、設計図のフォーマットが標準化されている,という点です。
モノ作りの行程の各ポイントにおいて、その仕事依頼のフォーマットが標準化されれば、その部分はあっという間にITサービス化することが可能になります。
そして、そこに凄まじい単価ダウンのための効率化が働くことになります。現在大企業において自分の中に閉じている行程が、ある時点でオープン化された環境よりも非効率になると、大企業は瓦解し、世の中は中小企業の集まりだけで構成されるようになるのではないか、という類推も可能になってきます。
そういえば、私も以前こんなことを書きました。
私が想像したこんな世界が、もうそろそろ起こると思うと、ちょっと怖い反面、ワクワクしてくる気持ちもあるのです。
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