2011年1月15日土曜日

技術を統合する技術

技術者の端くれとして、世の中の技術動向にはいろいろと思うところがあります。
最近思うことは、もはや単体の技術だけでは他社と差が付かないということ。単体の技術というのは、液晶の画質がスゴいとか、スピーカーがスゴいとか、転送スピードがスゴい速いとか、そういうような技術。

画面が同じ大きさのテレビで、しかもほとんど機能が同じで、10万円と20万円のものがあったらあなたはどちらを買うでしょう。確かに20万円のテレビは画像も音響も素晴らしいかもしれません。実際に、見て聴いて、その差を感じられるほどかもしれません。人によっては、この差は10万円分の価値がある、と思うでしょう。しかし、少なくとも最近のテレビの性能なら、どんなに安くてもそこそこの画質で見れます。ならば、安い方でいいじゃん、とほとんどの人は思うのではないでしょうか。

しかし、技術者の職場の雰囲気はちょっと違います。
その小さな差を随分と大きな差だと思い込む人が多い。そりゃ、自分が精魂込めて開発した製品なら、その性能差はきっと誰もが分かってくれると思いたいです。実際に売り場で、その違いを目にしたら、必ず値段の高い方を良いと思ってくれる、と信じています。

こういう心情が、技術者が単体技術を突き詰めてしまう傾向を生みます。
とりわけ、日本のメーカーはそういう気持ちが強いと思います。恐らく、20〜30年前は、単体の技術が一般人に与えるインパクトが大きかったのです。ところが、ある程度の品質に近づくと、それは一般の人から見ると大した差に見えなくなってました。いくら音が良くなったといっても、それはもはや好みの問題と言えるレベルです。
ところが、技術者ばかりの職場では、その差を追い求めることこそ、技術者の仕事だと信じ切っている人が多いのです。

昨今の技術のトレンドを見ると、私にはそのような単体技術ではなく、それらをどのように組み合わせて面白いものを作るか、という「技術を統合する技術」に長けた企業が勢いを伸ばしているように見えます。
いつもAppleの例ばかりになっちゃうけれど、そもそもAppleは、CPUだって作ってないし、メモリのデバイスも作っていない。マルチタッチのタッチパネルも自分が発明したわけではないし、そのような単体のデバイスはほとんど開発などしていません。
彼らはすでに世の中にある、ありものの技術を組み合わせ、誰もが思い付かなかったような製品(iPhone,iPad)を作り上げたのです。今や、個別の技術を作り出した会社の方が、Appleの言うなりになっている有様です。

技術を統合する技術を磨くには、複数の技術の最新状況を知らねばなりません。自分が単体技術の専門家である必要は無いけれど、各技術が社会的にどのような意味を持つのか、ということを分析できる能力が必要です。
私の想像するに、多くのメーカーは技術者が単体の技術を一生懸命磨き、技術を統合する技術を作り出せない営業・マーケティングや上層部が製品の企画をしているのではないでしょうか。
いきなり単体技術を寄せ集めて製品を作るのではなく、そういうものを組み合わせてそれを一つの技術に見せるような技術が必要だし、それを構想しきちんと実装に導ける技術者が必要です。
そして、多くの場合、そのような技術の統合ではソフトウェアが重要な役割を果たします。各技術を連携させて動かすのは、ほとんどソフトウェアの仕事だからです。だからこそ、今メーカーできちんとソフトを書ける力が大事なのだと私は思うのですが、残念ながら同様に感じてくれる人はまだ少ないのです・・・

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