2009年4月15日水曜日

合唱名曲選:大地讃頌

よもや、私からこんなベタな題材が上がろうとは・・・。
とはいえ、日本の合唱風景を語るのにこの曲の存在は欠かせません。ならば、この音楽の特性について考察しておくのも何かしら意味があることだろうと思われるのです。
それにしても、あらためてこの曲の音符をなぞってみると、その壮大なイメージとは裏腹に、非常にシンプルな作りであることに驚かされます。ピアノ伴奏も、ほぼ左手はオクターブ、右手は三和音の展開形の連打というパターン。合唱も基本はホモフォニックで、今どきなら十分平易な曲と言っていいでしょう。
しかし、そのような音楽上のシンプルさとは対照的に、宗教的とも言える荘厳な詩と、それに付けられた端正で力強いメロディ、そして愚直なまでに重々しいワンパターンな伴奏で奏でられたその楽想とが、見事に噛み合った希有な曲と言っていいのではないでしょうか。こんな曲は絶対狙って作れないと私には思われます。

その特徴をいくつか考えてみましょう。
この曲の大きな特徴の一つに、調の選択が挙げられます。ロ長調は、ある意味シンプルさからはほど遠い調と言えます。その分、日頃聞き慣れない斬新な響きを感じ、それが神秘感を醸し出します。
この曲がハ長調だったらどうでしょう。曲構造のシンプルさが逆にマイナスに向かってしまう気がします。和音が丸裸にされた恥ずかしさ、とでもいうような。
次に、シンプルであるが故に数少ないポリフォニーが良い効果を上げています。ベースの大好きな「ひとの子らー」とか、中盤の男声「われらーひとの子の」が女声と対比を成している部分など、音響的に分かり易いが故に、伝える力も強いのです。
あとは何と言っても、最後のフレーズの神秘的な和音展開。コードで書くとこんな感じでしょうか。
B -> G7/D -> C#m -> G#7/D# -> D -> F#7/C# -> B/D# -> E
この流れは私には非常に独創的に思えます。分数和音の低音の動きも絶妙。遠隔調への飛び方が、何度歌ってもゾクゾクとさせるほどの気持ちよさを感じさせてくれます。

シンプルであっても各要素のその絶妙なバランスが、多くの人の心をつかみ、そして名曲とさせているのだと思います。私には作曲する態度を真摯にさせてくれる、とても大切な曲のようにも思われるのです。

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