2005年11月13日日曜日

異星の客/R・A・ハインライン

Stranger超分厚い文庫本、二月近くかけてようやく読み終えました。私の場合、読書が長期戦になってしまうと、寝る前に朦朧としながら読み続けるので、なかなか内容が頭に入らずさらに長期戦になってしまいます。この本もなかなか面白かったのだけど、あまりに長くて、今となると最初の方、あんまり覚えてなかったりして。
��・A・ハインラインによるSF小説であるこの話は1961年に書かれた、この分野では古典と言われても良いような作品。後書きによると、60年代にこの小説はバカ売れして、ヒッピーの聖典とも言われたとか。確かに、SFとは言いながら、作品に現われるガジェットや、通信などの方法に古さを感じてしまうのは致し方はないでしょうが、そのあたりを責めるのはルール違反でしょう。

ストーリーは、火星人によって育てられた人間が地球に戻ってくるのですが、その男スミスを巡って、世界連邦政府の対応や周辺の人々との確執が始まります。いったんは老作家のもとで暮らすことになったスミスですが、今度は彼が新興宗教まがいのサークルを設立し、そして最後に・・・となるお話。
作者が言いたかったことの一つが、同じく有名なSF小説、「ソラリス」と共通しているような感じを受けました。つまり、全く未知の生物というのは、未知の感覚と、未知の文化と、未知の倫理観を持っているという点です。ソラリスよりはよほど人間には近いのですが、だからこそ人間文化との違いを際立たせることによって、逆に人間が常識だと思っていることを、意識の俎上にあげた上でひっくり返してしまおうという、そんな意図を持った作品。
おかげで、かなり人間にとってのタブーに近いところに踏み込む箇所があります。
例えば、火星では死んだ者を皆で食べるという習慣があることになっている。もっとも火星人は肉体がなくなることは死とは言わず、この小説はでは分裂と呼び、その後長老として精神的に人々の心の中に住むことになるらしいのです。
また、スミスは後半で宗教団体のようなサークルを作るのですが、そこは何というか、いわばフリーセックスのような巣窟となっています。水を分け合うことで水兄弟となり精神的に結びつくことを和合生成と言うのですが、火星人には性がなく、地球人同士で同じようなことを行うのに最も適した行為とスミスが考えたのがセックスだということになるわけです。
恐らく、このようにある閉鎖的な集団で濃密な精神のつながりを持つような生き方、に当時のヒッピーが強く共感したのかなとも思えるし、事実、この小説が発表された後、同じような宗教団体を作った人も現われたとか。

もう一つ、面白いネタとして、この小説の中にグロクする、という動詞が随所に現われます。グロクは火星語で「わかる」とか「認識する」とかに相当するらしいのですが、ハインラインは敢えて造語としてこの言葉を、小説の中で頻繁に使用しています。そしてついにこの言葉、辞書にも載ってしまったらしい。最近では、アップルのスティーヴ・ジョブスが演説の中でこの言葉を使った、とかいう記事も発見しました。
そんなわけで、SFといいながら60年代アメリカに大きな影響を与えたこの本、なかなか秀逸です。SFというよりは、人間の常識とは何か、そういった本質的な疑問を私たちに投げかけます。それと同時に、政治家、宗教家たちの言動への風刺に満ちているのも面白いという、社会的な楽しみも備えています。

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