評判の話題作、読んでみました。確かに、これは面白い!シュールだけどリアル。この作家は、どの辺りをシュールにして、そしてどのあたりをリアルにするか、そのさじ加減の按配さで、批評性が高く、かつ抽象度の高い物語構築をしていくのが実にうまいです。
例えば、シュールさというのは物語の基本設定である戦争が、町という自治体組織の重要な事業の一つになっていること(小説中、「戦争事業」と表現される)。さながら、地方活性化のために公共事業を推進する行動原理のよう。そして、戦争でありながら、具体的な戦争描写(戦闘の様子、人が死ぬ様子)が一切ないこと。ただし、戦争描写が一切ないことによって、逆説的に身近な人が戦死していく事実だけが心に重く響きます。
リアルさというのは役所仕事の杓子定規さ、特にこの点、作者がどこまでも丹念に描きたかったことの一つでしょう。その証拠に任命書やら申請書やら記録書といった役所書類の数々が小説の中に度々挿入されています。この辺り、安部公房みたい。戦争であっても議会の手続きやら何やらの承認が逐一必要だったり、偵察業務に性欲処理の業務などがあるのもかなりのブラックさ。
もっとも作者の描く世界は、シニカルな現状批判にそれほど近づかず、後半に行くにつれ、もっとリリカルで淡い哀しさを表現しようとします。最後のオチで、初めて戦争のリアルさを主人公が感じるあたり秀逸。ちょっと泣けます。アイデア勝利ではあるけれど、そのアイデアを実現する手腕にも驚かされた小説でした。
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