通常、和音は3度の堆積によって作られます。
まずはわかりやすく表にしてみましょう。
和音の構成音 root 3rd 5th 7th 9th (11th) 13th
階名 ド ミ ソ シ レ (ファ) ラ
13th の3度上は root(根音)から2オクターブ上のドになるので、3度堆積の和音の構成音は13thまでということになります。
見てわかるように 13th まで、3度重ねで全部の音を使うと、結局「ドレミファソラシ」の音階の全部の音を含むことになります。ちなみにファはrootに対してアヴォイドノートとなるので、テンション音で11thが使われることはまずないと言っていいでしょう。
と、ここまで読んで、今日読むのはやめるかと思ったあなた、ちょっと待って!とりあえず面倒なところは読み飛ばしても話はわかるようにするつもりですので。
さて、新しい音楽を作曲してみたい、と思う人なら、コンテンポラリーな音楽にも多少は興味はあるはずだし、自分なりの新しい音の組み合わせ方を開発してみたいと思うものです。広く知られているものとしては、シェーンベルクの12音技法とか、そこから発展したセリー音楽などがあります。
それならば、先ほど言ったように現在の和音の作り方が3度の堆積なら、3度以外の堆積があったっていいじゃない、というアイデアが浮かびます。
ちょっと具体的に考えてみると、2度堆積はほとんどクラスターみたいになって和音の識別が難しそうです。5度を超えると3度あるいは4度の組み合わせで記述できることになり、堆積していることそのものの意味が希薄になります。そう考えると、4度堆積ベースで和音を作ろうというアイデアが、残されることになります。
実は、上のような筋道でなくても、4度堆積というのはジャズ的にも使われることがあるようです。以前書いたモードの話と関連が出てくるのですが、調性を曖昧にする象徴的な方法として、モード的旋律と共に良く使われます。
例えば、「ミ」「ラ」「レ」と和音を弾いたとき、rootが「ド」でも「レ」でも「ミ」でも「ファ」でも、どんな音でもそれなりのテンション音(7th,9th,13th)に当てはまります。4度堆積による和音構成が、どのrootの和音でも使えるということは、逆に各和音の機能上の意味が希薄になることに繋がります。その結果、4度堆積を連続することによって、機能和声感が減ることになるわけです。
この4度堆積の一つの魅力というのは、決して耳障りな不協和音にならない、ということがあると思います。調性から離れるというと、へんてこで汚い和音が連続する現代音楽的なものをイメージしますが、4度というのは5度の裏返しであり(「ド」「ソ」は完全5度、裏返った「ソ」「ド」は完全4度)基本的に協和音程だと言えるでしょう。
協和音程をベースにしつつ、既存の機能和声から離脱できるということは、新しくかつ美しい響きを求めようとする作曲家のチャレンジ精神を刺激するのに十分なものです。
私が、4度ベースで作られた合唱曲を初めて意識したのは、数年前に某男声合唱団で歌ったヒンデミットの曲。かなりシブい音がして、一般ウケはしそうにはないものの、ちょっと興味を感じました。
最近、鈴木輝昭氏の楽譜を何冊か買ったのですが、この人のハードなアカペラ曲も、かなり4度堆積ベースの香りが漂っています。以前より、一体この音の組み合わせ方は何なんだー!ワケ分からん!と思っていたのだけど、これに気付いてから、ちょっとばかり親近感を感ずるこのごろ。
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