2010年1月21日木曜日

1.リクツへのご招待

あなたは理屈って好きですか?
日本語で理屈というと、悪いイメージがあります。
特に芸術の分野においては、理屈より感性のほうが大事であると一般には言われますし、そもそも芸術的に価値がある、ということを定量的に理屈で解析することは恐らく不可能でしょう。
しかし、多くの人がそのような言い訳を笠に着て、本来知っておくべき事や、知るに越したことがない事まで、覚えようとも理解しようともしないのは、より良い芸術を極めようとする者として、褒められる態度ではありません。
どのようなジャンルにおいても、理屈で割り切れない感性や、センスとしか呼びようのないモノが最後に大事になるのは確かなことでしょう。
しかし、そこに至るまでの過程においては、理屈を理解し、それを応用できる能力がとても大事なのは言うまでもありません。むしろトップアーティスト以外のほとんどの草芸術家(私もその一人)にとって、直面している困難な問題の八割くらいは理屈で解決できるのではないかとさえ感じるのです。

一般に、音現象は物理、数学によって解析することが可能です。
そういった音の物理学的側面は、音楽の演奏の現場や、楽典の理論と微妙に交錯します。
音楽家が、複素数の計算や、フーリエ変換、波動方程式まで知っている必要はもちろんないのですが、音楽理論と音の物理が交わる部分について知識を持っていれば、より音楽について理解が深まるのではないでしょうか。

理系研究者の間では、芸術の中でも比較的符号化し易い音楽を解析し、研究する人たちが増えているそうです。このような学問は「音楽情報処理」と呼ばれたりしますが、もう数十年先には音楽の気持ち良さと、人間が感じる気持ち良さの関係がかなり解明される可能性もあると思います。
そのような未来は望まない人も多いかもしれません。あるいは、そこで解明された事実を、感情的には受け容れられないかもしれません。
しかし、私にはとても興味のある研究分野です。音楽は理屈の届かない神秘の世界に属するもの、という感覚を少しずつ引き剥がして欲しいのです。音はあくまで人がコントロールして、その美しさを表現しているのです。最後に問われるのは、その音楽を奏でる演奏家の力量であり、その音楽を創作する作曲家のインスピレーションです。ですから音楽の理屈が解明されうるそんな未来こそ、芸術における真の感性の差、各人のクリエイティヴィティが本当に赤裸々に晒されるのではないでしょうか。

この連載では、神秘の世界に触れる以前の、もっと基本的な音のリクツの世界をご紹介しようと考えています。その際、基本的な音楽理論については、ある程度理解していることを前提にお話を進めます。特にこれまで、面倒な音の理屈を避けてきた文系芸術家に是非、読んで頂きたいというのが私の願いです。
また、プロアマを問わず、演奏家が演奏を録音したり、パソコンでCDを作ったり、インターネットで音源を公表するということも、今後は益々重要になってくるでしょう。そのための基本的なデジタル音声のリクツについても後半で説明したいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿