2006年8月5日土曜日

歌うネアンデルタール/スティーヴン・ミズン

Singneand音楽をキーワードに、人類の進化について考察を進めているというのが本著の内容。はっきり言ってヘヴィーですが、細かく読むと、刺激的内容に溢れていて、自分自身の人間観、音楽観にいろいろ影響を与える面白い本でした。
普通の動物と違う「人間」の性質を調べるには、もちろん脳科学のようなアプローチも重要ですが、実は進化心理学的なアプローチというのが、とても有効なのです。つまり、普通の動物から今の人間に進化してきたという事実は、人類が進化してきた過程で、人間的な形質が付加されてきた歴史の連続に他ならず、それを調べることが人間らしさの解明に近づくと思われるからです。
つまり人間らしさ、というのは、ほぼ心の問題です。心以外の機能は、人間は他の哺乳類とそう大差ないのです。この本では、特に音楽に照準を当て、この心の問題と音楽の関係を一つ一つ解き明かそうとしています。

第一部では、音楽が人に与える影響を論じ、脳障害者の例より、言語と音楽を扱う脳の領域の分布を探します。また、音楽が感情とどのような関係にあるか等が書かれています。
第二部は、進化心理学的アプローチで、猿人と呼ばれる状態から、ネアンデルタール人、そして人間(ホモ・サピエンス)と続く進化過程と、そこで発展しただろうと思われる人類のコミュニケーション、そしてその手段について考察します。
著者の意見は、人類には言語以前に音楽に非常に似た原始言語(本著内では「Hmmmmm」と呼ぶ)があったのでは、ということ。そして、そこで獲得された遺伝子が人間の脳内に存在していて、それが今の人間の音楽への嗜好と関係している、と論じています。特にネアンデルタール人は、そのような原始言語を発展させており、今の人間より音楽能力が高かったのでは、と述べています。
なるほど、これは面白い、と思わせる箇所は多数あります。そもそも、言語より音楽のほうが、よりプリミティブなコミュニケーション手段だったというのは、大変楽しい推理で、私たちの音楽観にも影響を与えるのでは、という気がしています。

2 件のコメント:

  1. 音楽と並んで古生物や生物進化等にも若干興味がある私には、これはおもしろそうな本ですね。探してみよう。
    ちなみに私は、人類が「芸術」の概念を意識したのはホモ・サピエンス(Homo sapiens)誕生とほぼ同時ではないか、従ってネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)は芸術を知らなんだ、と勝手に想像していました。
    ただ、私のこの意見のよりどころとなったのは、南アフリカの「ブロンボス洞窟」などに見られる各種のアクセサリー、デザインの意図が感じられる線刻等を見たことです。音楽を作るときと、絵画彫刻等を作るときとで、脳みその同じ部分が働いているのかどうか?これは私には何とも言えません。また、音楽の場合、アクセサリーや絵画彫刻などとは異なり「遺跡」「化石的記録」として残る可能性が非常に少ないので、人類進化の歴史の中で音楽がどのように発展したのかを調べるのはとても難しそうですね。

    返信削除
  2. 確かに音楽は残りませんからね~
    それを言うと、たかだか300年前の演奏がどんなものだったかさえ議論の的ですし。
    もちろんネアンデルタール人が音楽を、芸術と意識していたとは思えないのだけど、言語より先に音楽のようなコミュニケーション手段が人間のちょっと前の段階であった、というのは、音楽に携わるものとして興味深いです。

    返信削除