最近、本を読んで泣いたことがありますか。
たまには、泣けるような本を読んでみたいと思いませんか。
ということで、本を読んで泣きたいのなら、お勧めはコレ。泣けます。マジに泣けます。オビに書いてあることもあながち嘘じゃありません。泣いているのを見られたくないなら、人のいない場所で読みましょう。
この小説、実は第一回「このミステリーがすごい!」大賞の受賞作品。つまり、この作家、全くの新人作家です。「このミステリーがすごい!」というからには、推理小説なのかと思いきや、実は全くそういう傾向の作品ではなくて、本来ならこの作品、例えば「ファンタジーノベル大賞」を目指すべき作品のような感じなのです。
科学的薀蓄が充分述べられ、ある種の超常現象を扱っているこの小説は、最近のホラー、ファンタジーの系譜とほとんど同じライン上にあるものです。
しかし、それでもこの作品の本質は、恐らく「死」に対する根源的な疑問に対して真摯に挑戦したことであり、それを題材にして、それに悩む登場人物たちが生き生きと描かれている点にあると思います。
特に後半三分の一くらいは本当に泣きっぱなし。この間の、登場人物の健気さ、そしてそれを的確に表現する描写力は、手放しで素晴らしいと感じました。
もし、こんなことが本当に起こりえるのなら、まさに奇蹟としか言いようがない。もはや、これは宗教的世界に属する話になってしまいます。恐らく、この小説の魅力は、全く普通の人々が普通の考えを持って生きている、非常に身近なシチュエーションであるにも拘らず、そこで展開される物語が宗教的体験とでもいえるような厳かで壮大で、まさに「神の御業」としか言いようのない出来事であるというその落差から来ているのではないか、と思えるのです。
中にはキリスト教的モチーフもいくらか現れ、作者自身も宗教的な意味合いをかなり意識しているように思われます。もちろん、特定の宗教の教義に根ざしているという意味でなく、宗教の本質について考えさせるようになっているのです。
もう一つの魅力は、この作品がクラシック音楽を扱っているという点。
主人公である如月は、小さい頃からピアニストになるべく徹底的に英才教育を施されたという設定。しかし、彼は留学先のウィーンで暴漢に遭遇し、左手の薬指を拳銃で撃たれるというアクシデントに見舞われ、ピアニストの夢を絶たれるわけです。
物語り全体は、主人公はある宗教的体験の一番身近にいる目撃者という立場なのですが、そのような主人公の生い立ちが、随所でストーリーと音楽の絡みに繋がります。
音楽、宗教、脳科学、終末医療、こういった著者の造詣の深さ、及び考えがうまく絡み合っているのもさすが。最近の作家は専門知識を使いこなすのが実にうまい。もちろん、作家自身がそういった分野のプロフェッショナルであるはずがないけれど、専門家の言葉にリアリティを与える文章を書けるというのは並大抵の想像力ではダメだろうな、と感じました。
0 件のコメント:
コメントを投稿