邦題には「2040年の新世界」とありますが、オリジナルのタイトルは「Fabrifated: The New World of 3D Printing」であり、この本は3Dプリンタにまつわる話題について書かれたものです。
近頃、3Dプリンタに関する話題が増えていて、何となく面白そうなツールだなと思っている人も多いと思いますが、その潜在パワーを侮るなかれです。
この本には、3Dプリンタに関する様々な取り組みや実践例、そして可能性が紹介されています。
その一つ一つはこれまでも聞いたことのある話ではあったのですが、それらを一通り読んだ今では、これからとんでもない世の中になってくなあ、という印象を持ったのです。
3Dプリンタすごいです。未来は予想以上の速さで変化しますよ!
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最近聞くようになったのは、3Dのバイオプリンタやフードプリンタ。
バイオプリンタとは、生物の臓器を作ってしまうというプリンタ。細胞(バイオインク)を何らかの構造物に吹き付けて臓器を作り上げていくわけです。
病気になった臓器を取り替えるだけでなく、老化した臓器を交換していけばいつまでも若々しい体を保つことが出来る、という夢のようなお話なのですが、もちろん現実はそれほど簡単ではありません。
研究はまだまだこれからですが、こういった技術が荒唐無稽なものではなく、実際に実用化される可能性があるということを知っただけでも驚くべきことです。
フードプリンタはその名の通り、食べ物を出力します。
現状でも、すでにチョコレートや、クッキーなどはプリンタで出力可能なレベルにあるのです。また、いろいろな栄養物を自由に混ぜ合わせることができるので、例えば個人の身体の状況に合わせてカロリーメイト的な完全オーダーメイドの栄養食品を作ることが可能になります。そうなれば、自分の健康管理にこういったフードプリンタが使えるわけです。
ただし、素材を趣向を凝らして料理するのとは違うので、プリンタから出力された食べ物がどれだけ美味しく感じるかはやや疑問もありますが。
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3Dプリンタで何かを作ることは、そもそもこれまで組み立てて作られてきたものとは発想を変える必要があることを、この本では繰り返し説いています。
3Dプリンタは物体の内部をいきなり出力してしまうことが出来ます。
今までなら、中の部品を作って、それを覆うような筐体をネジなどでカバーして何かを作り上げていくわけです。世の中の機械類は、そういう作られ方をされることを前提としてデザインされています。
ところが、3Dプリンタを使えば、内部を分解する必要が無ければ、いきなり内部構造をプリントしてそれを密封することが可能です。
最近は電子回路そのものをプリントするといった研究もされていますから、基板の上にICチップや電気回路をハンダ付けして電子回路を作っていますが、回路図を書くだけでそういった電子回路が埋め込まれたブロックのようなものをプリントすることが可能になるかもしれません。
そうなると、あとは本当にレゴで何かを作るように、世の中の様々な電気製品を簡単にはめ合わせるだけで作れるようになるかもしれません。
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後半では、3Dプリンタからやや飛躍して、未来はどのようにモノが作られるようになるのか、といったことについてもかなり刺激的なことが書かれています。
現在、プリンタから出力されるデータはCADを使ってデータ化しますが、CADは物体の形状を全て手作業で書かなければなりません。
例えば、自然に生えている「木」のような造形物は非常に複雑であり、これをCADで正確に表現するのは大変な作業です。
ところが、木の幹からどのように枝が生えるか、というルールは比較的シンプルであり、木の形状とあるランダム性を掛け合わせた木の成長ルールをスクリプト化すれば、木のような複雑な構造物もそれほど手間をかけずにデータ化することが可能なのです。
実はこういう手法はすでにCGの世界では一般的なのだそうです。私は知りませんでした。
こうして、造形そのものをデータ化するのでなく、造形が生成されるルールをスクリプト的に記述することによって、より複雑で自然に近いものを簡単にプリントすることができるようになります。
さらには造形物の振る舞いを記述して、動きのあるものをプリンティングする、というようなことも可能になるかもしれません。
そして、ついに3Dプリンタが自分自身を作ることができれば・・・それはもはや自己複製が出来る生物と同じであり、新しい生命が誕生したとも言えるかもしれないのです。
もはやSF的、哲学的な話題ですが、そのようなことを想像する楽しみも与えてくれます。
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テクノロジーとは、いまや単なる新しい機械が現れることではなく、私たちの生活や常識や社会のあり方や、政治、国家のあり方にまで影響を与えることになるでしょう。
そして、その中で3Dプリンタ的なものが果たすべき役割も、相当大きなものになるのではないかと私には思われるのです。
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