その中でも特にその楽器が動かしやすいかどうか、というのは楽器の特性に大きな影響を与えます。以下では動かしにくい楽器について、いくつか例を挙げて考えてみましょう。
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持ち運べないと言ったら、建物と一体化しているパイプオルガンがまず思い浮かびます。
パイプオルガンは教会やコンサートホールを作るときにセットで設計され、一つ一つがほぼオリジナルの設計になります。
場所と一体化しているので、そのサウンドもその場所にオリジナルです。
最初からオリジナルであることが分かっているので、パイプオルガンは標準化された仕様というのがほとんど無く、場所によってパイプの種類や数が違います。特に教会では、演奏するオルガニスト自体がその楽器に専用の演奏者となっていることが多いと思います。
逆にコンサートホール等の場合は、演奏前にその曲をどういったパイプの組み合わせ(レジストレーション)で演奏するか事前に検討する必要があります。
動かせないから特殊化し、そのため標準化も進まず、演奏者がその楽器固有の対応をしなければならない、ということがパイプオルガンの事例から分かります。
建物と一体化していなくても、気軽に持ち運べない楽器と言えばグランドピアノでしょう。
ところがピアノはパイプオルガンと違い、世界中にあまねく普及し、標準化が進んだので、音楽を演奏するどのような場所でも標準装備されていることが多く、むしろそのためにわざわざグランドピアノを運ばなくても良い、というような状況になっている側面もあると思います。
こだわりのある一部のトッププロは自分のピアノを運ぶ、というようなことも聞いたことがありますが、それなりに繊細な楽器なので頻繁に運ぶことで受けるダメージを考えると、ホール等に備わっているピアノを使うというのが、少なくとも日本では一般的であるような気がします。
従って、グランドピアノは移動は出来るけれど、楽器そのものを運ぶことは購入時以外にはまるで考えられていないように思われます。
動かせないわけではないけれど、その設置に非常に手間がかかり、一人で持ち運べるというには程遠い楽器もあります。例えばドラムセットとか、ハープとか、チェンバロといった楽器類です。
こういったやや大型でセッティングの必要な楽器は、演奏者だけでなく運搬や設置を行なう専門の担当者が必要になったりします。
とは言え、ホールで常備するほど一般的ではなく、また奏者に依存する部分も多いので、こういった楽器は演奏の機会毎に移動せざるをえません。
ある程度演奏団体として態勢のしっかりした団体では、このような楽器のケアも可能ですが、個人単位では中々難しく、それゆえにこういう楽器はその特性ゆえアマチュアで演奏する人というのが非常に少なくなる傾向にあります。
ドラムも、バンド系楽器の中ではギターやキーボード人口に比べると、やはり少ないんじゃないでしょうか。
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実は上記のような持ち運びにくい楽器こそ、電子で解決し易いというメリットがあります。こういった楽器類が電子楽器になりやすいというのは、オリジナルの楽器の特性が非常に影響していると思われるのです。
逆に小さくて持ち運び易い楽器はむしろ電子楽器で代替する必要性は少なく、だからこそ、オリジナルに似させるメリットもないという考え方も出来るでしょう。
電子楽器でどんなに面白いことが出来るかを考える際、こういったアプローチも必要かと考えています。