2009年2月22日日曜日

7つの贈り物

主人公の行動に賛否が分かれるという点で話題になっている映画「7つの贈り物」を観ました。
全体的に説明を省き、主人公の行動の意味が後半になってだんだん明らかになるような構成を取っているため、前半ではなかなか内容の意味をつかみ取るのが難しく、少々いらだちます。
もちろんそれは脚本の意図であり、終盤で問答無用の感動を誘うため恐らくそのような流れになっているのでしょう。確かに、事実が分かった後には泣けてくるシーンも多々あるのだけれど、映画を観終わった後でいろいろと疑問が沸いてきたのは確か。以下、若干のネタばれになります。

そこまでして人を助ける・・・というのが、終盤での感動に繋がるのだけど、よく考えると、その行動はあまりにエキセントリック。もし現実にそのような行為をする人がいたら、助かった人々は無条件で喜べるでしょうか。そこがまず疑問。
逆に究極の人助けが重荷に感じてしまうだろうし、結果的に助けられた人が精神的にも幸せになれたとは言えない可能性もあります。
それから目的の達成のためにとった手段がいささか強引。法を犯し、兄弟友人に迷惑をかけてまで行うことが善行と言えるのか。敢えてそのようなシーンを入れたということは、製作者自体が「あなたはどう思いますか」という提起を観客に与えていると邪推してしまいます。
善い行いをする、という目的を厳格に遂行する、という力強い意思は賞賛されるべきなのでしょうか。そういうところはある意味、米国的な価値観なのかもしれないと思ったりします。
日本人なら、善い行いというのは行動の優しさという態度にも現れる感じがあって、冷徹に事を進める人物像になかなか共感を得るのは難しいでしょう。
自分の善行の対象になる人を審査するような、上から目線、みたいな感じも気になります。あんた何様よ、みたいな。
そんなわけで、個人的には必ずしも主人公の行動には納得しないものの、この映画が提起したある種の米国的価値観について考えるには興味深い題材なのかもしれません。

2009年2月15日日曜日

オーケストラで聴くプーランクのフルートソナタ

名古屋フィルハーモニー管弦楽団の「バレンタインコンサート」が浜松アクト大ホールであったので行ってきました。
今日の演目で一番気になっていたのは、プーランクのフルートソナタのオーケストラ編曲版(バークレー編曲)。室内楽の中でも、一二を争うくらい好きな曲であるプーランクのフルートソナタ。オリジナルを生で聴いたこと自体無いのに、そのオーケストラ編曲版を聴くなんて本当に滅多に無い機会です。

実際聴いてみて、いろいろと思うことがありました。
そもそもフルートのソリストは、この有名な曲を恐らく何度も演奏したことがあるはずであり、ピアノと阿吽の呼吸でアンサンブルしていたその感覚がかなり身体に残っていたに違いありません。
正直、オーケストラのアンサンブル感とはズレがあって、何度か演奏に乱れがあったように思います。これは、経験があったからこそ逆に、ソリストにとって合わせが難しかったんじゃないかなあという気がします。(実は指揮者が元々フルート奏者らしく、それでこんなマニアックな演目を選んだのではないかと想像しています)

編曲という点からも、ピアノとフルートの音像に慣れていると、いくつか違和感を覚えてしまいます。えー、そのタイミングでティンパニが入るの!とか。元々、二人の演奏者がアイコンタクトで独特のタメを作るのがこういった音楽の面白さであって、各フレーズがいろいろな楽器にばらされることによって、その微妙なタメを作るのが非常に難しくなります。
そう考えると、ピアノの楽譜をオーケストラに編曲するのって、とても難しい作業なんだなと改めて感じました。その場合、ときに原曲の音構造から離れて、ある程度自由に編曲した方がむしろ効果的になる場合もあるでしょう。しかしそれは、原曲の良さを損なうことにもなりかねず、非常に難しい判断になると思います。
なお、原曲では妙に明るくて若干の違和感のあった第三楽章が、最もオーケストラに合っていたように感じました。オーケストラの方が華やかさを表現し易いということなのでしょう。

その他、イベールのフルート協奏曲、プロコフィエフのロミオとジュリエットなど、浜松でなかなか聴けない演目を楽しませて頂きました。

2009年2月11日水曜日

「虹の輪」が演奏されます

オリジナル作品内のPD合唱曲シリーズで公開している女声合唱曲「虹の輪」が、明日(11日)、神奈川県合唱フェスティバルで演奏されます。中舘伸一さん指揮、Asian Windsの演奏です。私の把握している限りでは、恐らくこれが初演だと思います。
今回開催される第32回神奈川県合唱フェスティバルでは"立原道造"特集ということで、立原道造の詩による合唱曲だけを集めるというとても意欲的な企画。(チラシはこちら
ちなみに、その昔、神奈川県合唱曲作曲コンクールというのを、このフェスティバルの一部でやっていたんですよね。私は第18回のとき佳作を頂いて受賞式に伺いましたが、この作曲コンクールも20回で無くなってしまいました。

ちなみにこの「虹の輪」という曲を書いたのは、もう18年も前のこと。
当時はピアノ伴奏付きにまだこだわっていた頃で、最近書いている曲に比べれば、耳に優しい素直な合唱曲に聞こえます。
その頃は作曲しても発表できる場も無かったので、いまや懐かしいパソコン通信で、MIDIデータをアップしたりしていました。Nifty-Serve内にある"FMIDICLA"というフォーラムです(今聞けるMIDIデータも当時アップしたものと同じデータです)。この場所では、MIDIでクラシック曲を打ち込んだデータがたくさんアップされていました。
今同じことやろうとするなら、初音ミクに歌わせてニコニコ動画にでもアップしているかも。

そんなわけで、自分にとってももはや懐かしさを感じる曲なのですが、それが今更ながら演奏して頂けるということで大変嬉しく思っています。残念ながら、明日は演奏会には伺えませんが、浜松よりご盛会をお祈り申し上げます。

2009年2月8日日曜日

ベンジャミン・バトン 数奇な人生

ブラピ主演で、アカデミー賞に13部門でノミネートされているということで話題になっている映画。
内容は、年を取るほど若返ってしまう奇妙な男の人生を描いたもの。設定だけみると、非現実的な設定でSFぽかったり、ファンタジーっぽい雰囲気を想像してしまうけれど、これは完璧な人間ドラマ。人の生死を正面から扱い、人は一生かけて何をなすべきか、といった人生論めいた問題を観る人に投げかけます。

基本的には、主人公のベンジャミンとデイジーの恋愛が軸にストーリは展開されます。
幼い頃に出会った二人。デイジーは好奇心おう盛なかわいい女の子。でも、ベンジャミンは子供にして老人の風貌。それから二人は成長して、デイジーはバレエダンサーに、ベンジャミンは初老の男になりこの辺りから二人は意識し合います。
30代頃二人の年齢が最も近づいたとき、二人は一緒に暮らすようになり、幸せに満ちた生活を送るのですが、子供をもうけた後、益々若返る自分には父親の資格が無くなると思いベンジャミンは苦悩することになります。
この間、母親代わりとしてベンジャミンを育てた老人施設を切り盛りする女性、老人施設内の死にゆく老人たち、ピグミー族の男、ベンジャミンの生みの父親、船乗りの船長、ロシアの外交官の人妻、などなど多くの人たちがベンジャミンと関わり合い、そして別れていきます。一つ一つのエピソードが秀逸で、泣けるシーンが盛りだくさん。水泳で海峡を渡った老女がテレビに出るシーン、あの伏線がこういう形で解決されるのに思わず感動。
何しろ一生をそのまま描いたので、映画もたいへんな長尺です(2時間40分ほど)。

もう一つの見所は、老人から最後は子供にまで至る特殊メイク。デイジーも最後はおばあさんまで同じ人がこなしているのだけど、最近の特殊メイクってもうほとんどわからないですね。とても自然で、同じ人間がちゃんと年齢を重ねたように見えます。そういった細かいリアリティが、この物語の感動をより強めることになっているのだと思います。
何しろ、年を取ると若返る、という設定で、これだけの感動ドラマを作り上げたそのクリエイティビティは賞賛に値すると感じました。

2009年2月2日月曜日

唱楽Ⅲで「しりとりうた」初演

以前お知らせした通り、本日、東京文化会館小ホールにて「現代の音楽展2009唱楽Ⅲ〜現代児童合唱の領域」が開催されました。
前日にリハーサルがあったので、前の晩より東京入り。
初演前日に初めて生演奏を聴くことができました。いやースゴいです、多治見少年少女合唱団。初演でこれだけの精度で演奏して頂けるなんて滅多にありません。もちろん、田中信昭先生の厳しくそして効率的な指導の賜物なのだけど(想像以上のエネルギッシュさ!)、彼ら彼女らのプロ意識も半端じゃないのです。日頃の自分たちの活動がもう何だかグダグタに思えてしまうほど。こんな方々に初演してもらえるなんて本当に幸せなことです。
リハの合間に田中先生、合唱団団長の谷村さん、今回の制作を担当された山内さんともいろいろと興味深い会話が出来ました。

そして今日のコンサート全般も、非常に面白いものだったと思います。
いずれも、ハードな現代音楽。自己主張の強い、作家性の高い作品ばかり。合唱表現の可能性を感じることが出来ただけでなく、様々な作曲家が何を考え、何を伝えたかったのか、そしてそれをどういう形で楽譜に込めたのか、そういったこと全般に思いを馳せることができる有意義なコンサートだったように思います。
正直、拙作の持つある種の能天気さは、コンサートの中にあってかなり異色だったかも。それはそれで狙い通りだったとも言えるけれど、お客さんにはどのように感じられたのか聞いてみたいものです。

私にとって、作曲家を前面に出したこのような企画で、自作を初演してもらったことはほとんど初めてのことだったので、大変嬉しく、また幸せな時間を過ごさせて頂きました。